「たまにはいいね、吉野くんを見上げるっていうのも」

「床に座り込んでまで人を見上げたいと思う気持ちが俺にはわかりません」

「勘違いしちゃダメだよ吉野くん。誰でもいいから見上げたいんじゃなく、“吉野くんを”見上げたいんだから」


そう言って、佐渡は口元に笑みを浮かべる。とても楽しげな笑みを。


「吉野くんも、いつも見上げている俺に逆に見上げられるっていうのは、新鮮な気持ちになれていいんじゃない?」

「よくわかりません」


確かに、佐渡に見上げられるというのは中々ないことなので新鮮ではあるのだろうが、それが“いい”というのはよくわからない。せいぜい、珍しい構図だなと思うくらいだ。


「じゃあ、もっと俺をよく見てよ。そうしたらわかるかもよ?」


はい、どうぞ。なんて佐渡は、カウンターに預けていた背中を離して吉野の方に体ごと向き直る。
そこまでされて無視するのも気が引けたので、吉野もまた椅子の上でくるっと体を回して向きを変えると、佐渡と向かい合った。