「なんだったんだ……」


思わず吉野が呟くと、足元から押し殺したような笑い声が聞こえてきた。


「盗み聞きはどうかと思いますよ、先輩」


吉野は、ドアの方から笑い声が聞こえた自身の足元へと視線を移す。
山上の方からは死角になっているカウンターの裏側に、カウンター側に背中を預けるようにして床に座り込む佐渡の姿があった。


「いやいや、これは不可抗力でしょ。聞こうと思って聞いてたんじゃないし」


それはそうだが、わかっていても言わずにはいられなかったのだ。


「今の声ってあの子でしょ?この間吉野くんが放課後密会してた」

「……密会なんてしてません」

「放課後の教室に二人きり、これはもう密会以外の何ものでもないよねー」


そう言ってくすくす笑う佐渡を、吉野は軽く睨む。こちらを見ていないから、佐渡は気がついていないけれど。