「でも吉野くんは、どんなに煩わしそうにしてても、帰れって言わないんだよね。昔も、今も」


ふふっと、佐渡が機嫌良さそうに笑う。


「俺と一緒にいると嬉しそうな吉野くん、すごく可愛いよ。それを必死で隠そうとしているところがなおさらに」

「……っ」


反応したらダメだ。図星だと気付かせてはダメだ。無を貫かねば。

わかっていても、どれだけ自分に言い聞かせても、佐渡が近くにいて、自分のことを見つめていてとなれば、心臓が高鳴るのを止められない。

よし、逃げよう。ここは逃げよう。

どうしようもなくなった吉野が出した結論。けれど、ただ逃げるのも図星だと言っているようなものなので、吉野は雪崩を引き起こす原因となった詩集を手に取ってその場を離れた。

自分はこの本を正規の棚に戻しに行くのであって、図星だったから逃げるわけではないという体。
もちろんそんなのは佐渡には通じないから、吉野の努力も空しく可笑しそうな笑い声が聞こえてくる。
ついでに、「あー、ほんと可愛い」という声も。