下らない話

 沈黙に耐えかねてそっと開かれた樹の眼から、静かに涙が(こぼ)れた。

 震える俺の手に重ねられた樹の右手も、同じ様に震えていた。

「…消えるから‼︎俺ちゃんと、だから…」
「…」
「許して…」
「な…に言っ…」
「普通の()()して朝比奈の側に居続けた事…友達の()()して…騙して…」

『あり得ない』

 前にそう言ったお前は、

 自分自身を否定していたんだな…

 泣き叫びながら繰り返される「ごめん」や「普通」に何故だか急に笑えてきた。

 あぁ…うるせぇなぁ…

 俺の唇が樹の言葉を遮るのとほぼ同時に、入口のスライドドアが勢いよく開けられた。

 何の気無しにドアに目を遣ると、明け方俺の所に来てくれた看護師の満面の笑みとサムズアップがスライドドアの向こうに消えていった。