下らない話

『もう逃げるのはやめる』
 さっき樹が読んだのは俺のこの言葉を受けての返信だ。

「ほらよ。回答」
 入力の済んだ画面を樹に見せる。
「…あ、あぁ。うん」
 何やら難しい顔をして樹が俺から離れた。
「何だよ?」
「…友達なのに…するんだな」
「え?」
「水原さんと朝帰り…」
「あぁ…沙月んち泊まった時の話?ヤベーんだよ防音のカラオケルームあんだぜ?お前も今度一緒行くか?」
「…カラオケ?」
「一晩中聴かされ続けてよー…俺が寝そうになる度にマイクでぶん殴って起こしてきやがってアイツ」
「一晩中?」
「さすがに始発で逃げ帰ろうとしたら付いて来やがってさ、コンビニでアホ程カゴに入れられて払わされて散々だったぜ」

 爆笑する樹の顔を見た瞬間、無意識に手が伸びていた。
 樹の髪をぐしゃぐしゃに撫でていた。

「笑ってんじゃねーよ」
「セットが乱れるだろーが‼︎」
「んなもんしてねーだろーが‼︎」

 戯れる俺たちに向けられる棘のある一言。
「本当、仲良いよね…」
 俺はもうこの気持ちからは逃げない。
「まぁな」
 樹の頭を抱き寄せる。
「え⁈」
 横に並んだ男が素っ頓狂な声を出す。
「本当、仲良いのよ。俺ら…」

 俺はそう言って樹の彼女に笑ってみせた。
 悪いけど、もう引く気はない。