(れん)君、今からみんなでカラオケ行くんだけど一緒に行かない?」
「ねー、行こうよ(れん)君」
「うん、ごめんね。僕、カラオケ苦手だから」
「じゃあ、新しく出来たクレープ食べに行こうよ。美味しいんだって」
「うーん、また今度ね。先約があるんだ」

 そう言って、クラス一……いや学校一のイケメンが俺の肩を組んできた。

「えー、また佐倉(さくら)君?」
「ずるーい。じゃあ、佐倉君も一緒で良いから行こうよ」

 その言い方に腹を立てつつも、俺は愛想笑いしながら言った。

「俺は遠慮しとくよ。蓮、たまには行って来なよ。別に俺ら約束なんてして……」
「ほら、晴翔(はると)。早く帰ろ」

 俺が最後まで言い切る前に、蓮に連行されるように教室を出た——。

「もう、俺に構うなよ」

 足早に一人で帰ろうと廊下を歩けば、蓮も速度を上げてついてきた。

「僕は、晴翔が心配なんだよ」
「心配って、俺もう十七だよ。子供じゃあるまいし」

 ムスッと頬を膨らませて言えば、蓮に頬をぷにッと突かれた。

「そんなこと言って、晴翔。この間も電柱にぶつかってたじゃん」

 ははは、と無邪気に笑う蓮とは、家が隣同士のいわゆる幼馴染というやつだ。

 この機会に軽く自己紹介。

 俺の名前は、佐倉(さくら) 晴翔(はると)。十七歳の高校二年生。女の子みたいな顔の造りがコンプレックスで、前髪で目元を隠している。後ろも、まぁ長い。見るからに陰キャだ。取り柄もこれと言ってない。

 そして、隣にいる顔の良い長身の男は、葉山(はやま) (れん)。さっきも言ったが、学校一のイケメンだ。しかも、俺と違って勉強にスポーツ、何をやらせても完璧。人当たりも良いから、学校内でも男女問わずの人気者。何故か、昔から俺の世話をやいてくれる友人だ。

 ただ、そんな蓮と一緒にいると目立ってしょうがない。目立つのは苦手だ。陰キャは陰キャなりに、ひっそりと静かな高校ライフを送りたいのに——。

「あの! 蓮くん、ちょっと良い?」

 下駄箱で上級生の女子が蓮に声をかけてきた。予想は大体つく。俺は、靴に履き替え、蓮に言った。

「蓮。俺、先に行ってるから」
「ごめんね。すぐ追いかけるから」

 俺が歩き出せば、案の定、蓮が告白をされていた。

(今の先輩、可愛かったなぁ。蓮……付き合うのかな)

 蓮が告白をされる度に、胸がざわつく。

「あ、佐倉君一人?」

 隣の……いや、隣の隣のクラスだったか……とにかく別のクラスの女子が声をかけてきた。

「佐倉君、相談があるんだけど。ちょっと良い?」

 知り合いでもなんでもないのに、相談なんて乗りたくない。しかし、断る勇気のない俺に、頷く以外の選択肢はない。

「良いよ」
「ありがとう! 実はさ、蓮君のことなんだけどさ。手紙書いてきて、渡してもらえないかな?」
「良いよ」
「ありがとう!」

 女子生徒は嬉しそうに走って行った。そして、俺は手紙をカバンの中にクシャッと乱暴に突っ込んだ。

 今のは日常茶飯事。俺に話しかけてくるのは、さっきみたいな輩しかいない。
 目立ちたくないのも勿論あるが、蓮と誰かの恋のキューピットをしたくないのが、蓮と一緒にいたくない一番の理由だったりする。

 だって、俺は蓮のこと————。

「はぁ……俺が女だったらな」

 俯き加減にグラウンドの横を歩いていると、サッカーボールが飛んできた。避けなきゃと思いながらも、そんなに反射神経は宜しくない。

「晴翔、危ない!」

 蓮の声が突然近くで聞こえ、俺の顔面に直撃するはずだったボールが、蓮の背中に当たった。そして、俺は蓮の胸の中。

「晴翔、怪我はない?」

 何が起こったのか分からず、一瞬思考が停止する。

「すみませーん、大丈夫ですか?」

 サッカー部員達が駆けつけてきて、ハッと我に返った。

「ごめん、蓮。俺を庇って……」
「僕のこと心配してくれるなんて、今日はラッキーな日だな」

 ボールを当てられたのに、何故か上機嫌の蓮。

 頭を下げるサッカー部員にも爽やかな笑顔で返し、何事もなかったように歩き出す。

「蓮。背中、本当に大丈夫? さっきのボール、結構早そうだったけど」
「うん、晴翔の可愛い顔に当たらなくて良かったよね」
「なッ、可愛いって言うな」

 この顔がコンプレックスだって言ってんのに……。

 それより、俺達は長い付き合いだ。痩せ我慢しているのは何となく分かる。

「蓮、背中見せて」
「大丈夫だって」
「俺のせいで怪我なんてしたら……」

 本気で心配していると、蓮が諦めるように苦笑して言った。

「分かった。けど、ここじゃ脱げないから、後でね。たまには秘密基地でも行く?」
「だな」

 一緒にはいたくないけど、ずっと一緒にいたい人。矛盾しているけれど、俺は隣を歩く幼馴染が好きだ。