「んー…………ん?」
目を開けると、水中だった。体にだるさを感じているのは、渦潮のようなものに巻き込まれて、長く移動したからだろうか。
俺は覚醒させるように頭を振り、ついで辺りを見回した。
「ここは……?」
パッと見た限りでは、海の底に石や砂利が広がっていて、テントがあったところの水中と似たような風景だ。
テントのあったエリアと違うところと言えば、あちらは一本の砂の道がずっと続いていたのに対し、ここは少し離れた場所に、小さな島みたいなところがある、というところだろうか。
……どうしようか。
正直俺は、一人で探索するほど冒険者として成熟しているわけではない。
それに体力的にも、先ほどの魔法禁止エリアのこともあった万全ではないから、休憩を入れたほうがいいのだろう。
「ただ、ベルナーたちと早く合流したいんだよなぁ……」
さすがにはぐれるとは思っていなかった。
ここに来るまでに抱えていた高揚感を、寂しさと怖さが遥かに上回る。
あの昂りは、あくまで冒険者として探索も戦いもできるベルナーと共にいることが前提だったので、独りとなると、そもそも生きて返れるかどうか怪しい。
調整スキルがあろうと、腹は膨れないしね……
うーん、と考え込み、もう一度辺りを見回してみる。
「危険はなさそうだし……、いったん島に上がってみるか」
生物の姿を見ることもないし、視界に入る限りでは足跡みたいなものもない。
ベルナーたちのもとに早く戻るためにも、とりあえず体力を回復させたほうがいい。そう結論に至った俺は、気だるい体を必死に動かして、島に上陸したのだった。
島はさほど大きくなく、俺の店くらいの敷地の大きさの砂島。
しかしなぜか島の中央に一本の木が生えていて、なんだか存在感がある。
よくよく考えると、これはあくまでダンジョンが見せている幻影だとは思うが、塩水がはびこる海の、しかも砂に大きな木が生えているのは、そこそこの違和感だ。
だからなのだろうか、木には一切花や実はついておらず、陽光照り付ける下で枯れ木の装いだった。
「よいしょ……っとぉ! あぁ~……つかれた……」
とはいえそんなことを考えている余裕もなく、俺は木の根元にどっかりと座り込み、大きく息をついた。
陽光は強いが、濡れた体を温めるのにちょうどよい。
そんなことを思いながらうつらうつらしていると、ふいに砂を踏む音が聞こえた。
「えっ?」
視線をあげた先にいたのは、肩辺りで白髪を切り揃えた、無表情の少女だった。
色素の薄いクリーム色の瞳を持った彼女は、おそらく俺のお腹くらいの高さしかなく、どう見ても大人には見えないし、白いシャツとクリーム色のショートパンツは無地で質素で、冒険者の装備にも見えない。なんなら裸足だ。
ダンジョンに住んでいる……とは考えづらいし、この少女がモンスターというのもなかなか考えづらい。
……いやでも、このダンジョンはいろんな幻を見せてくるし、もしかしたらこれも幻なのか?
というか、そもそも俺は死にかけていて、この島自体が死後の世界だったり……?
急に心臓が早鐘を打つが、そんな俺を少女はきょとんとした顔で見てくるのみ。
しばしの間、沈黙が流れていたが、すぐに少女は木の陰に隠れてしまった。
「あ、あの……」
立ち上がり彼女を追い声をかけたが、少女は口を開かない。
やがて彼女はとてとてと小さな歩幅で、海のほうへと歩き始めた。
その歩みは少女の小さな足が水に触れても遅くならない。
「ちょっ……! 危な…………え?」
思わず手を伸ばし、体の疲れも忘れて彼女のもとに駆けようとしたが、俺の動きはすぐに止まった。
「道が、できた……?」
少女の進む先に、砂の一本道が浮かび上がってきたのだ。
まるでテントのあった場所のように、永遠と海の向こうへのびる砂の道を、俺は呆然と見るしかできない。
だって、さっきまでここは小さな島だった。
なのにどうして、急に砂の道が……? いやもうわからないなこれ。
疲れた体では何も考えが及ばなくてその場で立ち尽くしていると、砂の道を進んでいた少女が立ち止まり、こちらに振り向く。
そして、こてん、と首を傾げた。
「……ん?」
意図がわからず疑問に思っていると、少女はまた数歩歩き、再びこちらを見て首を傾げる。
彼女はそれを何度か繰り返したところで、やっと意図がわかった。
「もしかして、ついてこい、ってこと?」
彼女に届く声でそう聞くと、ぶんぶんと勢いの良い頷きで応えてくれた。
それを見て、少し悩む。
とくにこちらを騙そうとするような子ではないとは思うが、心配は残る。
ベルナーたちと合流もしたいし、俺とこの子でモンスターと出会ってしまったら、その時が最期になってしまうだろう。
とはいえ助けを待つ……というのもなかなか難しいな、と推測できるわけで。
「うーん……ま、ついていってみるか!」
とりあえず、進んでから考えてみよう。
こんな海のど真ん中にある孤島で餓死待ったなしよりかは、何かしら希望があると思うし。
俺は少女に追いついて、隣に並んだ。
「どこに連れていってくれるかわからないけど、ついていくよ」
そう言うと少女はかすかに口角を上げ、俺の手を握る。
そして、先ほどよりも少し早いペースで、砂の一本道を進み始めたのだった。
目を開けると、水中だった。体にだるさを感じているのは、渦潮のようなものに巻き込まれて、長く移動したからだろうか。
俺は覚醒させるように頭を振り、ついで辺りを見回した。
「ここは……?」
パッと見た限りでは、海の底に石や砂利が広がっていて、テントがあったところの水中と似たような風景だ。
テントのあったエリアと違うところと言えば、あちらは一本の砂の道がずっと続いていたのに対し、ここは少し離れた場所に、小さな島みたいなところがある、というところだろうか。
……どうしようか。
正直俺は、一人で探索するほど冒険者として成熟しているわけではない。
それに体力的にも、先ほどの魔法禁止エリアのこともあった万全ではないから、休憩を入れたほうがいいのだろう。
「ただ、ベルナーたちと早く合流したいんだよなぁ……」
さすがにはぐれるとは思っていなかった。
ここに来るまでに抱えていた高揚感を、寂しさと怖さが遥かに上回る。
あの昂りは、あくまで冒険者として探索も戦いもできるベルナーと共にいることが前提だったので、独りとなると、そもそも生きて返れるかどうか怪しい。
調整スキルがあろうと、腹は膨れないしね……
うーん、と考え込み、もう一度辺りを見回してみる。
「危険はなさそうだし……、いったん島に上がってみるか」
生物の姿を見ることもないし、視界に入る限りでは足跡みたいなものもない。
ベルナーたちのもとに早く戻るためにも、とりあえず体力を回復させたほうがいい。そう結論に至った俺は、気だるい体を必死に動かして、島に上陸したのだった。
島はさほど大きくなく、俺の店くらいの敷地の大きさの砂島。
しかしなぜか島の中央に一本の木が生えていて、なんだか存在感がある。
よくよく考えると、これはあくまでダンジョンが見せている幻影だとは思うが、塩水がはびこる海の、しかも砂に大きな木が生えているのは、そこそこの違和感だ。
だからなのだろうか、木には一切花や実はついておらず、陽光照り付ける下で枯れ木の装いだった。
「よいしょ……っとぉ! あぁ~……つかれた……」
とはいえそんなことを考えている余裕もなく、俺は木の根元にどっかりと座り込み、大きく息をついた。
陽光は強いが、濡れた体を温めるのにちょうどよい。
そんなことを思いながらうつらうつらしていると、ふいに砂を踏む音が聞こえた。
「えっ?」
視線をあげた先にいたのは、肩辺りで白髪を切り揃えた、無表情の少女だった。
色素の薄いクリーム色の瞳を持った彼女は、おそらく俺のお腹くらいの高さしかなく、どう見ても大人には見えないし、白いシャツとクリーム色のショートパンツは無地で質素で、冒険者の装備にも見えない。なんなら裸足だ。
ダンジョンに住んでいる……とは考えづらいし、この少女がモンスターというのもなかなか考えづらい。
……いやでも、このダンジョンはいろんな幻を見せてくるし、もしかしたらこれも幻なのか?
というか、そもそも俺は死にかけていて、この島自体が死後の世界だったり……?
急に心臓が早鐘を打つが、そんな俺を少女はきょとんとした顔で見てくるのみ。
しばしの間、沈黙が流れていたが、すぐに少女は木の陰に隠れてしまった。
「あ、あの……」
立ち上がり彼女を追い声をかけたが、少女は口を開かない。
やがて彼女はとてとてと小さな歩幅で、海のほうへと歩き始めた。
その歩みは少女の小さな足が水に触れても遅くならない。
「ちょっ……! 危な…………え?」
思わず手を伸ばし、体の疲れも忘れて彼女のもとに駆けようとしたが、俺の動きはすぐに止まった。
「道が、できた……?」
少女の進む先に、砂の一本道が浮かび上がってきたのだ。
まるでテントのあった場所のように、永遠と海の向こうへのびる砂の道を、俺は呆然と見るしかできない。
だって、さっきまでここは小さな島だった。
なのにどうして、急に砂の道が……? いやもうわからないなこれ。
疲れた体では何も考えが及ばなくてその場で立ち尽くしていると、砂の道を進んでいた少女が立ち止まり、こちらに振り向く。
そして、こてん、と首を傾げた。
「……ん?」
意図がわからず疑問に思っていると、少女はまた数歩歩き、再びこちらを見て首を傾げる。
彼女はそれを何度か繰り返したところで、やっと意図がわかった。
「もしかして、ついてこい、ってこと?」
彼女に届く声でそう聞くと、ぶんぶんと勢いの良い頷きで応えてくれた。
それを見て、少し悩む。
とくにこちらを騙そうとするような子ではないとは思うが、心配は残る。
ベルナーたちと合流もしたいし、俺とこの子でモンスターと出会ってしまったら、その時が最期になってしまうだろう。
とはいえ助けを待つ……というのもなかなか難しいな、と推測できるわけで。
「うーん……ま、ついていってみるか!」
とりあえず、進んでから考えてみよう。
こんな海のど真ん中にある孤島で餓死待ったなしよりかは、何かしら希望があると思うし。
俺は少女に追いついて、隣に並んだ。
「どこに連れていってくれるかわからないけど、ついていくよ」
そう言うと少女はかすかに口角を上げ、俺の手を握る。
そして、先ほどよりも少し早いペースで、砂の一本道を進み始めたのだった。

