この世界からきみが消えても


「ねぇ、警察には何て証言してたの? 嘘がバレたって話だったけど」

「……知ってたんだ。正木さんから聞いたのか」

「いいから教えて」

 西垣くんは背もたれに体重を預け、重たげに口を開く。

「バイトから帰ってからはずっと家にいた、って。莉久を見つけたのはコンビニに行こうとしたときにたまたまだ、って……」

 やっぱりそうだったんだ。
 ひとえに疑われたくないがために、適当なでまかせを口にした。
 ただ、目撃されたのは自宅ともコンビニとも別方向だったのだろう。

「それ、ぜんぶ嘘なんだよね? 本当は何してたの?」

「……忘れもの、取りに行ってた」

 目を伏せたまま端的に答える。
 眉を寄せつつ「忘れもの?」と聞き返すと、彼はおもむろにペンケースを引き寄せる。
 中からUSBメモリを取り出した。

「これ。次の日がレポートの締め切りだったけど、まだ半分も書けてなくて」

 ふと、先ほど読み取ったヴィジョンがよぎる。

「そっか、バイトの休憩中にも書いてたんだね。それでUSBメモリをそこに忘れてきた」

「そう……。結局終わんなくて、徹夜(オール)でやるしかないって思って。けど、帰ってからUSBメモリがないことに気づいたんだ」

 慌ただしく家から出ていったのは、だからだと腑に落ちた。

「ちょっと借りていい?」

 彼の手からUSBメモリを取ると、指先に電流のような衝撃が訪れる。
 脳裏(のうり)にヴィジョンが流れ込んできた。

 ────暗い部屋。
 輪郭(りんかく)だけの世界を、ものの濃淡が立体的に形作っている。
 恐らく先ほども見た古着屋のスタッフルームだ。

 室内も店内も明かりが消えていて、足元もおぼつかない中で数人の人影が忙しなくうごめいていた。
 ほかの従業員だろう。

 そんな中、スマホのライトを頼りに西垣くんが歩き回っている。
 テーブルの下を覗き込んだとき、ちょうどUSBメモリが照らし出された。
 それを回収すると、最初と同様にすれ違ったほかの従業員に挨拶を交わし、店を出ていった。

 そこで残像が(つい)えて、現実へ立ち返ってくる。
 慎重に西垣くんを見やった。

「あの日、停電でもあったの?」

 そう尋ねると、驚いたように目を見張る。

「何で知ってんの? それも正木さんから?」

「ううん、そういうわけじゃないけど……。どうして停電してたの?」

「あー、何か店のブレーカーが落ちたらしい。古い建物だし、原因は色々考えられるだろうなって感じ」

 西垣くんは苦い顔で腕を組んだ。
 停電自体に誰かの作為的なものは感じられない。