すっかり取り乱して泣き喚く彼女を、動揺を禁じ得ないまま見つめる。

 急に発作か何かを起こして、緊急手術にでもなったのだろうか。
 あんな状況に晒されたら、みおちゃんがパニックを起こすのも無理はなかった。

「だ、大丈夫。大丈夫だよ」

 なるべく明るく励ましながら震える肩をさする。
 莉久がいてくれたら、と幻影に縋ってみても、わたしにはこんなことしか言えない。

「お母さんの病室行こっか。もう戻ってきてるかもしれないし、きっとお父さんも心配してるよ」

 依然として涙はおさまっていないものの、いくらか落ち着きを取り戻したみおちゃんは力なく頷く。
 手を差し出してみると、おずおずとてのひらが重なった。

 繋ぐというよりは、指先を掴むような握り方だったけれど、歩き出すとしっかりついてきてくれた。
 前回の記憶を頼りに病室を探すと、扉の前に父親の姿があった。

「みお」

 彼女は呼ばれるより先に駆け出し、ぎゅう、と力の限り彼に抱きつく。
 よっぽど不安で心細かったみたい。

「ママは……?」

「心配ないよ。いまは寝てるけど、起きたらきっと元気になってる」

 どうやら、幸いにも切迫した状況は既に脱した模様だ。

 頭を撫でてもらったみおちゃんは、その言葉や温もりに心底ほっとしたのかまた泣き出してしまった。
 だけど、その顔にはだんだん色が戻りつつある。

「あの、すみません。今回もまたご迷惑を……」

「いえいえ、全然。大事なくてよかったです」

 申し訳なさそうに頭を下げる彼にそう返しつつ、みおちゃんに笑いかける。

「よかったね、みおちゃん」

 けれど、彼女はさっと彼の陰に隠れてしまった。
 じっと窺うようだった瞳に警戒の色が宿る。

「おねえちゃん、だれ……?」

 戸惑っているうちにこぼされたひとことは、いっそう衝撃的なものだった。

「え?」

 嘘や冗談を言っているわけではなさそうだ。
 彼女の態度に一切の隙がなくなり、言葉通り初対面の相手に人見知りしているような雰囲気がある。

「なに言ってるんだよ、みお。ここまで連れてきてもらったんでしょ? ほら、この前も迷子だったところを助けてくれたお姉さんだよ」

 困惑をあらわに苦笑する彼がそう言っても、みおちゃんはふるふると首を横に振った。

「知らない。さっき初めて会ったんだもん」