今回こそは約束通り、オープン前に黒沼のバイト先に行く。

 そう息巻いていたのも五限が終わり、大学を出るまでだった。
 十八時には間に合うよう、キャンパスを出ようとした時。俺のスマホが鳴った。
 確認すると、ラインの新着メッセージが届いていた。白いチワワのアイコンを見てドキッとする。

『ごめん今日リスケしていい?店のビールサーバー壊れて今業者が来てる』
 スタンプも絵文字もない。黒沼の初ラインはシンプルな内容のものだった。
 俺は『了解!』の文字とともに、有名アニメのキャラが指でオッケーのポーズをとっているスタンプを追加で送った。

 初めてのラインでのやりとりは業務連絡だったけれど、返事を打つ指が緊張で震えた。黒沼と……好きな人とラインを交換して、やりとりをした。いつも好きになった相手と個人的にやりとりするまで行ったことがない俺にとって、それはすごいことだった。
 まあ、今回は黒沼が聞いてくれたからラインを交換できたんだけど。
 そう考えると、俺ってだいぶ他人任せじゃないか? と思った。ハヤトたちといる時はあまり気にしたことがない。でも思い返せば、いつも俺は自分から人を誘ったり連絡先を聞いたりしたことがなかった。
 誘われたら行く。質問されたら答えるし、連絡先を聞かれたら教える。相手からのアクションに応えていれば、人間関係は上手くいくものだと思っていた。

 でも本当に?
 黒沼とのラインのやりとりを見つめながら、俺は初めての気持ちに戸惑う。
「会いたい……って言ったら怒るかな」
 周りに聞こえないぐらい小さな声で呟いた。
 今日、黒沼と会うつもりで最後まで講義を頑張った。でもリスケになった。つまり今日は会えない。

 次会えるのはいつになるだろう。黒沼ならきっと向こうから再度スケジュールを組み直してくれそうな気がする。大体今日はいつまでかかるかわからない業者の対応をして、そのあとはお店の開店が控えている。俺が想像もつかないような忙しさの中に、黒沼はいるかもしれない。
 だから黒沼から連絡が来るまでは、おとなしく待っていた方がいいのだろう。これ以上、ラインにメッセージを連投しない方がいい。黒沼の迷惑になる。
 俺は会いたい気持ちをぐっと胸にしまい、スマホを閉じた。