腕時計を見てバスが来るまでの、10分間。ほんの少しだけと思って、目を伏せた。

 疲れきった今の私には、青春を謳歌する学生たちは、あまりにも眩し過ぎて。


 ……ぽつりぽつりと、雨が何かに当たる音がした。


 目を閉じたまま、いつものバスを持っていた私は、俯いていた顔を上げて、空を見上げた。夕方の赤い空には、見える範囲には灰色の雲はない。

 ……不思議になった。雨は降っていないというのに、雨音は私の耳に確実に届いている。

 そして、どこからこの雨音は聞こえてくるのだろうと、何気なく隣を見て、私は驚きに目を見開いた。

 背の高い高校生の男の子が居て、私が何年も前に卒業した普通高校の制服を着ている。

 そして、彼の手は開かれた傘を持っていた。

 本当に不思議だけど、彼の持つ傘からは雨音が聞こえて……けれど、今私が居るこの辺には、雨は降っていない。

 ……朝のニュースの天気予報だって、ここ最近は晴天が続くだろうと言っていた。だから、私は折り畳み傘を今、鞄に入れていない。

「……どういうこと?」