私たちの関係に、名前はまだない。

 七瀬くんの瞳にある虹彩が見えるほどに、彼の目は純粋に透き通っていて綺麗だ。私だって、高校生の頃には、きっとそうだったのかもしれない。

 どこで、そうではなくなってしまったのだろう。諦めを覚え妥協を覚え、私は周囲に合わせて大人になった。

 求められるがままに妥協して、婚約したのにすぐに解消になり、そして、酷いことをされたのに、波風を立てたくないと何も言わずに我慢して妥協をしようとしている。

 けれど、高校生の七瀬くんは私に、ここで戦うべきだと言ってくれた。

 悲しみに負けて泣いて日々苦しむくらいなら、この名刺をスマートフォンに打ち込んで、酷い言葉をまた投げ返すでもなく、大人として冷静に法律でやり返してやれと。

「わかった……焼肉、奢るね」

 七瀬くんの叔父さんならば、十年経ったとしても、甥の連絡先を知っているはずだ。すべて終えて私から焼肉を奢ると突然連絡があれば、驚くかもしれない。

 あの時に、七瀬くんが助けてくれたのは、同じ教室に居る自分のことを好きな同級生の、未来の姿だったのだと……。