私たちの関係に、名前はまだない。

「したわ……きっと、したわ」

「けど、しなかった。婚約までしたのに浮気して嘘をついて、お姉さんに真正面からぶつかって責められることを、避けようとしたんです。しかも、別れ際に暴言。悪質で狡い男ですし、どう考えても酷いです。訴えましょう」

「私だって正直に言ってくれれば、それで良かったと思ってる……けど、彼にとって私にはそれだけの……何の価値もないんだと思って……悲しくて……」

 また、ハンカチで目元を押さえた私に、七瀬くんは言った。

「そんなにも……非道な男からお金貰うのに罪悪感があるなら、俺に焼肉おごって下さい。これからの日本の未来を背負う、立派な青少年への投資です。お姉さんが悲しんでいることは、法律で禁じられています。法律を犯したのは先方なので、ここは感情を切り離して訴えましょう。そして、俺は焼肉が食べたいです」

「え? ……焼肉?」

 ぽかんとしてしまった私に、七瀬くんは微笑んだ。

「はい。俺、肉なら、めちゃくちゃ食いますよ。だから、慰謝料で焼肉奢って下さい。その悲しみ、決して、無駄にしないでください」