私たちの関係に、名前はまだない。

 矢継ぎ早に告げた七瀬くんは、鞄の中からあたふたと名刺を出して、私に渡してくれた。

「えっ……あ。ありがとう。けど、私はそんな……お金なんて」

 私だって元婚約者に恋をしていたかと言われたら、そうではない。お互いに条件を妥協をしての婚約だったし……けど、あんな風に、自分が粗末に扱われたことが辛かった。

 あれならばまだ、素直に好きな人が出来たから悪かったと言ってくれれば良かった。

 お涙頂戴の作り話までして、周囲を丸め込み、そして、元婚約者だった私を、疑いもしないのかと心底馬鹿にしていた。

 そんな風な扱いをされた自分にも、腹が立っていたし、もう胸の中は悔しさやら悲しさやら、後悔だったりがぐるぐると渦巻いて、涙は溢れて止まらないし、もうぐちゃぐちゃだった。

「お姉さん」

 七瀬くんは私の肩を持って名前を呼び、目を合わせた私を真剣な眼差しで見つめた。

「……いつまでも。やられっぱなしで、良いんですか」

「それは……」

「俺も……お姉さんもそう思っていると、思いますけど、そういう話ならば、正直に他に好きな人が出来たって言えば、お姉さんは祝福したと思います」