私たちの関係に、名前はまだない。

 私だって、高校生の頃にはそう思っていた。けれど、社会人になって社会の歯車の一つになり、だんだんと思い知らされていく。

 私はスパダリと言われる素敵な男性選ばれるような、そういう……特別な人間ではない。

「……大人には、色々あるんだよ。君も私くらいの年齢になると、わかるようになる」

 苦笑をするしかない。

 これは、自分が経験するしかなくて……私だって、夢見たままでその後も生きられるのなら、そうしたかった。

 けれど、人生は現実で私はこの先も生きていかなくてはならないし、結婚すれば、それは誰かと協力出来る。

 楽な道へ進むように、私は親に言われるがままに、結婚することを選んだ。

「……そうですか。あ。バス来ました……お姉さんは乗らないんですか?」

 私は黙って首を振った。私の目には、走るバスは見えていない。

 ダイヤ改正はよくあることだから、十年ほど前の今の時間は、この時間にバスが来ていたのかもしれない。

「またね」

 私が小さく手を振ると、七瀬くんは礼儀正しくお辞儀をして、傘片手に走って去っていった。