殺人、はじめました。

 「あの…落とし物の相談に来たんですが」
演技は一応できているようだ。大丈夫。私ならできる。
「は、はぁ」
坂道の目が、明らかに私のハイヒールに向いていることに気づいた。
「あ、これですか?私、これからパーティーに行くんです。」
怪しまれずに済んだ…だろうか。
「へ、へぇ。立派なハイヒールですね。」
めっちゃ怪しんでる~!
「ありがとうございます。これ、お気に入りなんですよ。買ったばかりで。」
できるだけ自然に言う。
「買ったばかりなんですね~。で、相談とは?」
まずい!相談する「物」を決めていなかった。アドリブってキツイ。
「あ、えっと、家の鍵を、どこかで落としちゃって…」
「家の鍵ですか?普通、そんなの落とします?」
急に調子乗りあがって。超ムカつく。
「私、ドジなので。あの、そちらにありませんか」
「ドジにも程がある。人の鍵なんかあるわけないじゃないですか。」
「はぁ。そうですよね。ごめんなさい。」
「反省してるならいいですよ。」
あんた、教師か⁉上から目線で話すな、コラ!
「あの、落とし物コーナーを拝見しても…」
「それはいけませんね。」
「はい?」
「ずっと、怪しいと思っていたんですよ。見た目は普通の大学生なのに、高級なハイヒールなんか履いて。おかしいと思いまして。」
「これは、母と一緒にアウトレットパークに行ったとき…」
「そうですか。では、先ほどあなたは『買ったばかり』と言いましたよねぇ。自分で買ったんですか。」
ここは、動揺しないように。できるだけ、普通にならないと。
「母と一緒に買ったんです。父が会社の経営をしていまして。大学に行くときのプレゼントに、と」
「では、どこの大学に通っているんですか。」
「東京大学です。頑張って勉強したので。」
「優秀なんですね。では、学生証を見せてください。」
「部屋にあります。鍵を見つけるまで、入れないので」
「おかしいですね。あなた、昨日はどこで寝たんですか」
「ホテルです。一回、部屋に帰ったんですけど、鍵がないことに気づいて。」
「ちょっと待ってください。あなた、『これからパーティーに』って言いましたよね。鍵をなくしたのに、パーティーなんか行っちゃっていいんですか。それほど『大事な』パーティーなんですねぇ~」
さすが「イケナイ警察官」。勘が鋭い。今はおんぼろ交番に働く爺だけど。
「ダメですか。私、鍵を見つけて、部屋に帰ってから、パーティーに行く予定だったんですけど」
「交番に行ったら、なんでも見つかると思わないでください」
「分かりました。でも、交番って、区民のために尽くすのが役目ですよね~。」
「君、クスリを使ってないかい。大学生が、クスリを使って『馬鹿になった』事件はたくさんある。」
「馬鹿が東大行けるわけないでしょ」
坂道が銃を構えた。
「暴れないでくれ」
「そっちこそ」
私は、逃げた。これ以上ここにいても、意味がない。