一曲目が始まった。歌うのは大ヒットのきっかけとなった『Mint』だ。
何がいいのかわからんけど、相変わらず悲鳴がうるさい。
「君に出会うまで~ずっと孤独で苦しかったんだ~」
「そんな俺を変えてくれた~君が大好きさ~」
あ、そうなの。あんた、孤独で苦しかったんだ。初耳ね。
不意に、坂上亮と目が合った。私は言った。「今からあんたを殺すね?」と。
どうせ届かないだろう。東京ドームだ。マイクがないと、声さえ聞こえない。
でも、なぜか亮が驚いているように見えた。私が言っていることが分かるのか?
「何を言っているんだ」
マイクをわざと遠ざけて、亮は言った。口の動きで何を言っているか分かる。
ファンが亮の行動に不思議がっているのが見える。
曲の途中でそんなことをしていたら、確かに気になるかもしれない。
「覚悟しなさいよ。」
私は銃を取り出した。『取り出した』とは言っても、ニットの袖で隠している。
音々はまだ気づいていない。亮が息をのんだ。覚悟したのだろうか。
あんたは、今日で人生を終えるのよ。ごめんね。でも、『闇アイドル』なんかやんなきゃいいのよ。
『闇アイドル』…金持ちの女性に高い金を支払わせて枕営業を持ちかけるアイドル。
いわいる、「ママ活」のアイドルバージョン。
ヤグザに収入の半分を送り、それを「純金」として受け取る仕事。
テレビ局やメディアを脅して金をもらう『闇』なアイドル。
せっかく、いい人生が待ってたのに。なんでこんなことをしちゃったのかしら。
「やめてくれ!それしかないんだ。俺は、児童養護施設から逃げ出してきたんだよ!」
児童養護施設から逃げ出してきた。衝撃の一言だった。私は18歳になったから施設を卒業した。
でも、亮は、『逃げ出してきた』のか。それで、街をぶらぶら歩いてたらヤグザがー
最悪な人生だ。私よりもひどいかもしれない。私は、そんな可哀そうな人を殺そうとしていた。
これはミッションだ。絶対に成功させないといけない。でも、私と同じ目に遭った人を殺すのは。
隣の音々を見る。私の銃に気づいたようだ。
「ダメです、先輩!可哀そうな人なんです、亮ちゃんは」
「だ、だけど、これはミッションよ!」
「私は、止めます。ブルー先輩が亮ちゃんを撃ったら、身を挺して亮ちゃんを守ります」
音々の目は『本気』だった。亮だけは傷つけない、という『本気』だった。
私は、今まで人をたくさん殺してきた。傷つけてきた。
優しい音々の気持ちなんかわからないし、知りたくもない。
だけど、亮は元々不幸だったんだ。私より何倍も『孤独で苦しかった』んだ。
『Mint』は亮のための歌かもしれない。
いずれにせよ、私は誘惑に負けて殺すんだ。確実に。
でも、善人になりたかった。善人になれない私を変えたかった。
音々のような純粋できれいな心になりたかった。鈴木のような素直で明るい心になりたかった。
なにより、雨歌のように、自分に嘘をつかないまっすぐな心になりたかった。
私は決心した。亮を殺すのはやめよう。
一回だけでも、善人になってみよう。悪者は、心の片隅に置いておこう。
何がいいのかわからんけど、相変わらず悲鳴がうるさい。
「君に出会うまで~ずっと孤独で苦しかったんだ~」
「そんな俺を変えてくれた~君が大好きさ~」
あ、そうなの。あんた、孤独で苦しかったんだ。初耳ね。
不意に、坂上亮と目が合った。私は言った。「今からあんたを殺すね?」と。
どうせ届かないだろう。東京ドームだ。マイクがないと、声さえ聞こえない。
でも、なぜか亮が驚いているように見えた。私が言っていることが分かるのか?
「何を言っているんだ」
マイクをわざと遠ざけて、亮は言った。口の動きで何を言っているか分かる。
ファンが亮の行動に不思議がっているのが見える。
曲の途中でそんなことをしていたら、確かに気になるかもしれない。
「覚悟しなさいよ。」
私は銃を取り出した。『取り出した』とは言っても、ニットの袖で隠している。
音々はまだ気づいていない。亮が息をのんだ。覚悟したのだろうか。
あんたは、今日で人生を終えるのよ。ごめんね。でも、『闇アイドル』なんかやんなきゃいいのよ。
『闇アイドル』…金持ちの女性に高い金を支払わせて枕営業を持ちかけるアイドル。
いわいる、「ママ活」のアイドルバージョン。
ヤグザに収入の半分を送り、それを「純金」として受け取る仕事。
テレビ局やメディアを脅して金をもらう『闇』なアイドル。
せっかく、いい人生が待ってたのに。なんでこんなことをしちゃったのかしら。
「やめてくれ!それしかないんだ。俺は、児童養護施設から逃げ出してきたんだよ!」
児童養護施設から逃げ出してきた。衝撃の一言だった。私は18歳になったから施設を卒業した。
でも、亮は、『逃げ出してきた』のか。それで、街をぶらぶら歩いてたらヤグザがー
最悪な人生だ。私よりもひどいかもしれない。私は、そんな可哀そうな人を殺そうとしていた。
これはミッションだ。絶対に成功させないといけない。でも、私と同じ目に遭った人を殺すのは。
隣の音々を見る。私の銃に気づいたようだ。
「ダメです、先輩!可哀そうな人なんです、亮ちゃんは」
「だ、だけど、これはミッションよ!」
「私は、止めます。ブルー先輩が亮ちゃんを撃ったら、身を挺して亮ちゃんを守ります」
音々の目は『本気』だった。亮だけは傷つけない、という『本気』だった。
私は、今まで人をたくさん殺してきた。傷つけてきた。
優しい音々の気持ちなんかわからないし、知りたくもない。
だけど、亮は元々不幸だったんだ。私より何倍も『孤独で苦しかった』んだ。
『Mint』は亮のための歌かもしれない。
いずれにせよ、私は誘惑に負けて殺すんだ。確実に。
でも、善人になりたかった。善人になれない私を変えたかった。
音々のような純粋できれいな心になりたかった。鈴木のような素直で明るい心になりたかった。
なにより、雨歌のように、自分に嘘をつかないまっすぐな心になりたかった。
私は決心した。亮を殺すのはやめよう。
一回だけでも、善人になってみよう。悪者は、心の片隅に置いておこう。



