「高彩さん」

 夢丘の声で目が覚めた。喉が渇いたという。急いで冷蔵庫からイオン飲料を取り出して、それをコップに入れ、ストローをさして、寝ている夢丘に渡した。

「おいしい」

 今日、初めて笑みがこぼれた。でも、額に手を当てると、燃えるように熱かった。まだ高熱が続いているようだった。

「何か食べる?」

 フルーツゼリーやバナナがあることを伝えたが、首を横に振った。食欲はないらしい。

「ところで、」

 彼女の目は寝袋に注がれていた。

「うつるから帰れと言われても、帰らないからね」

 機先を制した。

「でも、」

「余計なことを気にしないの!」

 とにかく寝て治すしかないのだから、目をつむってしっかり休むようにと命令口調で言って、話を終わらせた。

        *

 日が暮れたので、幕の内弁当を食べ始めた。鮭、海老天、唐揚げ、野菜の煮物、佃煮(つくだに)、かまぼこ、ショウガ、卵焼き、どれもおいしくいただけた。
 食後のお供は音なしテレビだった。ニュース番組で女性アナウンサーが口をパクパクさせているのを見ながら缶コーヒーをすすった。