夢丘の定休日の火曜日の朝、電話がかかってきた。その日は食事をしながら面貸しの契約について相談することになっていたのだが、熱が出て、待ち合わせの場所に行けないという。
「熱って、何度?」
「わからないんです。体温計がないので」
東京に来てから風邪を引いたことがなく、体温計も風邪薬もないという。
「わかった。すぐ行く」
ドラッグストアに寄って、体温計と風邪薬を買い、スーパーに寄って、オレンジ100%のジュースとフルーツゼリーとフルーツサンドを買って、彼女の家に急いだ。
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彼女の家に着くと、玄関の前で電話をした。鍵を持っていないから開けてもらうしかないのだ。
返事があって、しばらくして、鍵を開ける音がした。マスクをして玄関の中に入ると、見るからにしんどそうなマスク姿の彼女が立っていた。
「大丈夫?」
口にした途端、陳腐な言葉に違和感を覚えた。大丈夫なわけはなかった。立っているのも大変そうなのだ。
「とにかく、横になろう」
左手に買い物が入ったビニール袋を持って、右手で彼女を支えながらベッドのある部屋へ向かった。
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熱があるどころではなかった。40.1度だった。すぐに、インフルエンザだと思った。でも、病院に行けそうにはなかった。例え行けたとしても、車を持っていないわたしに連れて行く手段はない。それに、バスはもちろんのこと、タクシーを使うわけにもいかない。インフルエンザを運転手さんに移したら大変なことになるからだ。
残る手段は往診しかなかった。わたしはネットで近所の内科を検索して、片っ端から電話をかけまくった。
しかし、対応してくれるとことは1軒もなかった。7軒続けて断られると、さすがに落ち込んだ。でも、諦めるわけにはいかない。その気力が後押ししてくれたのか、8軒目に電話をかけようと番号を押そうとした時、ある言葉が浮かんできた。
ファストドクター。
そうだった、困った時に往診してくれるありがたい存在を思い出したのだ。早速、ネットで探して電話をかけた。40.1度と告げると、すぐに対応してくれることになった。



