「では、そこまで」
大地の声を聞き、紅蓮は鬼火を消した。
歓声の声があがる。それは春代ではなかった。
「すごくお強いのですわね!」
駆け寄ってきたのは、いつも以上に着飾った静子だった。
婚約者ではなく、紅蓮に駆け寄る姿を見た彰浩の目は冷たかった。元々愛し合っている中ではなく、実力者同士というだけで決められた婚約だ。そこには愛はないが、それなりの情はあった。しかし、その情も一種で崩れ去った。
「わたくし、神宮寺静子と申しますの。お姉さまよりも――」
静子は感激したというかのように語りかける。
美しい髪飾りと美しい袴姿、どちらも最新の流行を取り入れていた。
椿油の櫛で整えられた黒髪は美しく、多くの男性を虜にしてきた。
「春代」
紅蓮は静子に目を向けることもせず、すぐに背を向けた。
心配そうに見守っていた春代の元に駆け寄り、優しく、髪を撫ぜる。
「心配はいらなかっただろう?」
「はい。……そんなにもお強いとは思いませんでした」
「これでも鬼だ。弱いはずがない」
紅蓮は言い切った。
その後ろでは恨めしそうに見つめている静子がいた。
……静子様?
嫌な予感がする。
静子は自尊心が高く、誰よりも上にいなければ気が済まない性格だ。
「当主。力は証明した」
紅蓮は大地に声をかけた。
大地は放心状態の彰浩の傍に寄り添っていた。
「あ、ああ。もちろん、十分だ。試すような真似をした非礼を詫びよう」
大地はそう言い、使用人を手招きをする。
「離れの別邸を与えることになっている。掃除はできているか?」
「はい。埃の一つも残っておりません」
「それならいい。紅蓮殿、春代、終の棲家となる場所に案内しよう」
大地は安心したように言った。
この場に集まっていた陰陽師たちは紅蓮に恐怖心を抱いている。自分たちが悪戦苦闘している悪鬼など紅蓮と比べればかわいいものだった。
……終の棲家。
神宮寺家から外に出すつもりはないのだろう。
大地の声を聞き、紅蓮は鬼火を消した。
歓声の声があがる。それは春代ではなかった。
「すごくお強いのですわね!」
駆け寄ってきたのは、いつも以上に着飾った静子だった。
婚約者ではなく、紅蓮に駆け寄る姿を見た彰浩の目は冷たかった。元々愛し合っている中ではなく、実力者同士というだけで決められた婚約だ。そこには愛はないが、それなりの情はあった。しかし、その情も一種で崩れ去った。
「わたくし、神宮寺静子と申しますの。お姉さまよりも――」
静子は感激したというかのように語りかける。
美しい髪飾りと美しい袴姿、どちらも最新の流行を取り入れていた。
椿油の櫛で整えられた黒髪は美しく、多くの男性を虜にしてきた。
「春代」
紅蓮は静子に目を向けることもせず、すぐに背を向けた。
心配そうに見守っていた春代の元に駆け寄り、優しく、髪を撫ぜる。
「心配はいらなかっただろう?」
「はい。……そんなにもお強いとは思いませんでした」
「これでも鬼だ。弱いはずがない」
紅蓮は言い切った。
その後ろでは恨めしそうに見つめている静子がいた。
……静子様?
嫌な予感がする。
静子は自尊心が高く、誰よりも上にいなければ気が済まない性格だ。
「当主。力は証明した」
紅蓮は大地に声をかけた。
大地は放心状態の彰浩の傍に寄り添っていた。
「あ、ああ。もちろん、十分だ。試すような真似をした非礼を詫びよう」
大地はそう言い、使用人を手招きをする。
「離れの別邸を与えることになっている。掃除はできているか?」
「はい。埃の一つも残っておりません」
「それならいい。紅蓮殿、春代、終の棲家となる場所に案内しよう」
大地は安心したように言った。
この場に集まっていた陰陽師たちは紅蓮に恐怖心を抱いている。自分たちが悪戦苦闘している悪鬼など紅蓮と比べればかわいいものだった。
……終の棲家。
神宮寺家から外に出すつもりはないのだろう。



