……勝てるのかしら。

 紅蓮は鬼だ。
 人ではない。

 ……陰陽師はあやかしを退治する専門ですのに。

 人とは違う存在を退治するのが陰陽師の役目だ。

 そんな相性の悪い相手に対し、紅蓮が勝てるとは思えなかった。

「俺を試すというのか」

 紅蓮は牙を剝き出しにして笑った。

 今にも人を食いそうな笑い方だった。

「良いだろう」

「紅蓮様」

「なんだ?」

 紅蓮は優しく声をかける。

 紅蓮は春代にだけは優しかった。

「神宮寺彰浩様はご当主様の次にお強い方です。お気をつけてくださいませ」

 春代には止める権利はない。

 しかし、心配はしてもいいだろう。

「春代」

 紅蓮は安心させるように春代の名を呼んだ。

「俺は人に負けるほどに弱い鬼ではない」

 紅蓮は言い切った。
 その力強い言葉に春代も安心した。

「では参ろうか」

 紅蓮は春代を膝から降ろし、そのまま、抱き上げる。

「紅蓮様! 自分で歩けます!」

「これほどに軽い体に負担をかけるのは良くない」

 紅蓮は春代を抱き上げたまま、大地の後ろを付いていく。

 大地は障子を開けるとそこには準備をしていた彰浩の姿と、噂を聞きつけた多くの陰陽師たちと使用人たちがいた。

 ……見世物のようですわ。

 ぞっとした。

 紅蓮の力を見る為に集まってきている人々の目は、紅蓮に向けられている。その視線が恐ろしく、春代は目を閉じた。