「俺は春代と契約結婚をした。黒江とは結婚しない」

「それは困ります。黒江は紅蓮様を恋い慕っているのです」

「嘘は止めてくれ」

 紅蓮は黒江の愛の告白を嘘だと決めつける。

 黒江の視線は春代に向けられた。

「人間、何歳になりましたか?」

「16歳になりました」

「16歳! あやかしにとっては赤子も同然ではないですか! 赤子に恋をするなど、酒呑童子様は許しはしませんよ!」

 黒江は酷く驚いたような顔をした。

 あやかしや妖怪と呼ばれている者たちからすれば、人間は等しく赤子も同然だ。百年経たなければ付喪神になれないように、百年経たなければ一人前と認められない。

 紅蓮は三百数年生きる鬼だ。

 自立した生活をしている。

 いまさら、父親である酒呑童子の機嫌を取ろうとは思わなかった。

「鬼道丸様も外道丸様もお認めにはなりませんわ」

「睡蓮は喜んで認めるだろうな」

「紅蓮様に懐いている睡蓮様は別ですわ」

 黒江は紅蓮の言葉に言い返す。

 それをしながら、春代に視線だけは向け続けていた。

「睡蓮様が好みそうな見た目ですこと」

「そ、そうですか」

「怯えた様子は合格ですわ。あやかしたるもの、人間に舐められては困ります」

 黒江は尻尾を左右に振るう。

 尻尾は二本。二百年近くしか生きていない証拠だ。

「怯えているんじゃない。引いているんだ」

「同じことでしょう?」

「まったく違うことだ」

 紅蓮は訂正をした。

 それに対し、黒江は首を傾げる。

「とにかく、許嫁はこの黒江ですのよ」

 黒江は主張する。

 それに対し、紅蓮は呆れたような視線を向けた。

「奴隷のように使ってさしあげますわ」

 黒江は堂々と宣言した。

 それに対し、春代は静子を連想させていた。