* * *


 宙を舞う大首はけらけらと笑っていた。

 百鬼夜行が境界に向かって走っていく姿は圧巻だった。

 ここは幽世。あやかしや妖怪と呼ばれている者たちが好んで住んでいる場所だ。鬼火が何か所からも舞ってくる。境界から降り注ぐように鬼火が幽世へと向かってくる。

 その光景を目にした春代は目を輝かせた。

 地面に降ろされた春代は空を見上げていた。

「紅蓮様。ここには大勢のあやかしがいらっしゃるのですね」

「ここだけじゃない。地域ごとにあやかしが住んでいる」

「まあ。地域が別れていらっしゃるのですか?」

 春代は驚いた。

 真っ先に案内された場所は大きな屋敷の前だった。慣れたように屋敷の前に着地した紅蓮のことだ。この屋敷は紅蓮の住みかなのだろう。

「これから住処となる屋敷だ。少々、古臭いのは我慢してくれ」

「問題ありませんわ。祠よりも住みやすそうですわね」

「そうか」

 紅蓮は春代の手を掴み、屋敷の中に入っていく。

「紅蓮様」

 屋敷の中に入ると玄関で頭を下げている狐耳の少女がいた。

 それに気づいた紅蓮は嫌そうな顔をする。

「旭叔父様がお呼びでございます」

「断る」

「断ることはできません。そちらの人間についてのお話もございますので」

 狐耳の少女はゆっくりと顔をあげる。

 両目の横に赤い化粧を施した少女の瞳孔は獣のようだった。

「黒江という許嫁がおりながらも、人間を嫁にするなど許されません。旭叔父様はお怒りでございます」

 少女、黒江は許嫁を自称する。

 ……許嫁がおられたのですか!?

 春代は酷く驚いた。

 契約結婚を持ち掛けてきたのは紅蓮だ。まさか故郷に許嫁がいるとは考えもしなかった。

「許嫁など親父殿が勝手なことを決めただけだ」

 紅蓮は否定しなかった。
 しかし、乗り気ではなかったのだろう。