「静子」

「お父様!」

 信也は静子の名を呼んだ。
 その途端、静子は物に当たるのを止めて、深夜の元に駆け寄った。

「お前はなにをしてくれたのだ」

 信也は怒っていた。

 それに気づいた静子はわざとらしく首を傾げる。

 ……セツを自殺に追い込んだのがばれたのかしら。

 怒られる理由の心当たりはそれくらいだった。

 静子にとって母親の価値はない。価値がないものを壊したところで怒られるはずがないと心の底から思っていた。

「なにもしてませんわ」

 静子は嘘を吐いた。

 荒れ果てた部屋を見れば暴れまわっていたのが、よくわかる。侍女の怯え切った様子を見れば今日が最初ではないこともわかる。それなのに、父親に気に入られようと必死だった。

「嘘を吐くな」

 信也は汚らわしいものを見るような視線を静子に向ける。

 それに気づいた静子は居心地が悪かった。

「当主から婚約を白紙に戻すと言われた」

「え?」

「お前は彰浩様の嫁候補から外された。それ以外に価値がなかったのに、どうしてくれるんだ」

 信也の言葉が理解できなかった。

 静子は信也に縋りつくように手を伸ばしたが、はねのけられた。

「なぜか、わからないのか」

 信也の問いかけに静子は頷いた。

「お前が殺したのは当主の妹だ」

 信也は強く非難する。

「お前が殺そうとしたのは当主の姪だ」

 信也の言葉に静子はようやく理解をした。

 ……神宮寺家の名誉のために自殺にしただけなのね。

 他殺だとばれてしまえば、警察が入ることになる。それを防ぐ為だけに自殺ということにしたのだ。

 ……セツのやつ。遺書を残したわね。

 遺書に書いてあったのだろう。