無能の生贄は鬼と契りを交わす

「春代は親を疎まないのか?」

 紅蓮は問いかけた。

「お前を見捨てた親だ。憎んでいてもおかしくはないだろう」

 紅蓮の言葉に春代は首を左右に振った。

「憎みません」

 春代は断言した。

 幼い頃の他の仕方日々が恋しかった頃もある。自身の才能のなさを恨めしく思ったこともある。それでも、両親を恨んだことはなかった。

「すべて私がいけないのです。才能を持たずに生まれてしまったから」

 春代はすべての原因が自分にあると考えていた。そうしなければ、気がおかしくなってしまいそうな日々だった。

「……違うだろう」

 信也は春代に視線を向けて否定をした。

「見放した私たちの責任だ。お前はただ普通の子として生まれてきただけだ」

 信也は春代の考えを否定する。

「いまさら、父親面をしようとは考えていない」

 信也の言葉に春代の胸がちくりと痛んだ。

 ……どうして、痛いのでしょうか。

 そこに疾患があるわけではない。
 ただ、深夜の言葉が冷たく聞こえたのだ。

「セツの遺品をもらってほしいだけだ」

「それだけですか?」

「そうだ。セツの最後の願いを叶えたかっただけなんだ」

 信也の言葉に春代は風呂敷を抱きしめる。

 風呂敷の中身はセツが春代に渡したかったものばかりが入っているのだろう。

 ……お母様。

 なぜ、命を絶ってしまったのか。

 二度と聞くことができない。

 見鬼の才があっても、未練を残していかなければその姿を見ることができない。

「かしこまりました」

 春代は笑顔を作った。

 セツと似ているが、ぎこちのない笑顔だった。

「お母様の意思を継ぎます」

「ありがとう、春代」

「いいえ。こちらこそ、お母様の遺品を届けて下さりありがとうございます」

 春代は頭を軽く下げた。