かつてのセツもからかうと怒っていたことを思い出してしまっていた。セツと似ているところを見つけるたびに、セツのことが恋しくてたまらなくなる。

「お父様? どうされましたか?」

「いや、すまない。セツとあまりにも似ていて懐かしくなってしまっただけだ」

「お母様と似ていますか?」

 春代は驚いた。
 両親に似ているところなどないと思っていた。

「よく似ている」

 信也は肯定した。
 それから、涙を拭い、紅蓮を見上げる。

「紅蓮殿。春代をよろしくお願いいたします」

「頼まれなくても嫁の世話くらいはできるが」

「それでも、父親として言わせてください」

 信也は父親らしいことを一切してこなかった。
 春代を見捨てたのは信也も同じだ。

「親というのは厄介だな」

 紅蓮は自身の両親のことを思い出す。

 側室の子として育った紅蓮は派閥争いに負けている。母親との仲は良好だが、父親とはほとんど会話をしたことがない。実家が運営している鬼頭自警団は鬼を中心とした一大勢力である。両親も兄たちも所属をしている。

「放っておいた子でも、なにかあれば、親として口を出す」

 紅蓮は自身の置かれた環境と春代の置かれていた環境が似ているとは思わない。

 紅蓮は実力者だった。だからこそ、望んでもいない派閥争いに巻き込まれることになり、鬼頭自警団に所属をしているだけで顔を出すこともしていないのだ。

 鬼頭自警団は自由だ。最低限の秩序さえ守れているのならば、鬼であれば誰でも所属できる。仕事時間も決まっていない。働きたい者が働けばそれでいいという自由な形をとり、不思議なことに成り立っている。

 ……紅蓮様はどのような環境で育ったのでしょう、

 春代には想像ができなかった。

 親を疎むような発言を聞く限り、仲の良い親子ではなかったのだろう。

「紅蓮様。親は親としての義務がございます」

「その義務を果たさない者に口出しはされたくないと?」

「いいえ。口出しをするのも親の義務です」

 春代の考えに紅蓮は首を傾げた、

 理解ができなかった。

 誰よりも親を疎んでいてもおかしくはないのに、なぜ、春代は恨まないのだろうか。