「私は紅蓮様と契約結婚をしております」

「契約だと?」

「はい。助けていただいた見返りとして結婚をすることになったのです」

 春代の言葉に信也は顔をあげた。

 契約を結んでいるからこそ、紅蓮の姿は春代を通じて周囲に見えるようになったのだ。春代以外では紅蓮の姿を正確に見ることができる者は、今の神宮寺家にはいなかった。

 結婚を条件として結ばれた契約は破られない。

 あやかしにとって契約はなによりも優先するべきことである。

「今後も守ってくださると約束をしてくださりました」

 春代は信也を安心させるように言葉を口にした。

 それが逆効果だと知るよしもなかった。

「お前はあやかしと契約を結ぶ危険性を知らないのか!」

 信也は大きな声をあげた。

「不幸中の幸いが紅蓮殿であったことだけだ。それ以外であったなら、とっくに食われていたぞ」

「人を食べるのですか!?」

「そういう被害が多発していることも知らないのか! ……いや、お前の耳に入らないようにしてきた我々の責任だ。春代は悪くはない」

 信也は意見を変えた。

 春代を守るように信也を睨んでいる紅蓮に怯えたのだろう。

「紅蓮様も人を食べますか?」

「俺は食べない」

「そうですか。よかったです」

 春代は安心した。

 自分は食べないと言っているだけであり、人を食する仲間がいることを否定していないと気づいていなかった。

「食べたら、二度と話せないだろう?」

「そうですわね。ですから、齧ったりもしないでくださいね」

「どうだろうか。やはり、味見くらいはするかもしれないな」

 紅蓮はからかうような言葉をかける。

 それに対し、春代は頬を膨らめた。

「食べないとおっしゃられたではないですか!」

 春代は嘘つきは許さないと言わんばかりの声をあげた。

 その姿を見ていた信也は涙を流した。