「セツは自殺ではない」

 男性は断言した。

 セツの死因は首つりだ。自らの意思で命を絶ったと連絡を受けている。

「これから札作りを教えると意気込んでいたやつが、自殺などするものか」

 男性はセツの死因に疑問を抱いていた。

 しかし、それを訴えて調査させるほどの権力は男性にはなかった。

「……あなたは、私のお父様ですか?」

 春代は疑問を口にする。

 それに対し、男性は頷いた。

「神宮寺信也という。お前の父親の名だ」

 男性、神宮寺信也は名を告げた。

 ……この人がお父様。

 記憶の中にはいなかった。

 幼い頃を含めて、一度も会ったことがなかった。幼少期はあやかしに対応できる陰陽師が少ないこともあり、仕事漬けの日々であった為、春代が起きている時間と信也が春代の顔を見に来る時間が異なっていた。

「静子には気を付けろ」

「静子様ですか?」

「そうだ。あいつは執念深く、紅蓮殿を狙っている」

 信也は忠告をした。

 ……静子様。

 セツも静子には気を付けるようにと言っていた。

 ……どうして、私からなにもかも取り上げようとするのかしら。

 幼い頃に大切にしていた玩具も着物もすべて取り上げていった。落ちこぼれには不要だと目の前で捨てられたこともある。

「セツを殺したのは、おそらく、静子だ」

 信也は小さな声で囁いた。

 ……ありえません。

 人殺しに手を染めるとは思えなかった。

 そのようなことをしてはいけないという道徳心がそう思わせるのだろう。一方で静子ならばやりかねないという気持ちもあった。

 ……そのような憶測は誰に聞かれているのかもわかりません。

 祠を兼ねた離れの屋敷に好んで足を運ぶ者はいない。

「次の標的はお前だろう。気を付けろ」

 信也は淡々とした声で告げた。

 それが真実のような気がしてきて恐ろしかった。