玄関を叩く音がした。
 その音に気づいた春代は慌てて玄関に向かう。

 ……お母様のお葬式が終わったばかりなのに。

 心の整理がまだついていなかった。

 扉を開けると男性が立っていた。

「……陰陽師としての仕事の依頼でしょうか?」

 無言で立ち尽くす男性に対し、春代は問いかけた。

 それに対し、男性は頷き、依頼書が入った封筒を差し出す。

「紅蓮様にお伝えいたします」

 春代は封筒を受け取り、男性を見た。

 男性はなにか言いたげな顔をしていた。

 ……侍女ではなく、陰陽師の方が来るなんて珍しいですね。

 男性の使用人も少なくはない。しかし、目の前の男性のように上質な着物を着ているのは陰陽師だけだ。

「あの、他になにかご用件でもございますか?」

 春代は不審そうに声をかける。

 男性はようやく口を開いた。

「セツの遺品だ」

 男性は持っていた風呂敷を春代に押し付ける。

 セツの名を聞き、春代は素直に風呂敷を受け取った。

「お母様の遺品をもらえるとは思いませんでした」

 すべて静子の手元に渡る者だと思っていた。

 春代の言葉を聞き、男性の表情は曇る。

「セツの娘はお前だけだろう」

 男性は断言した。

 しかし、静子も養子縁組をしている為、セツの娘になっている。そのことを知らない人はいないはずだ。

 ましてや、生贄に選ばれるほどの落ちこぼれであった春代のことをセツの娘と表現する人は、ほとんどいないだろう。

「セツと話をしたそうだな」

「……はい。少しだけですがお話をさせていただきました」

「あいつはそのことを嬉しそうに話していた」

 男性は懐かしそうに口にした。

 ……あいつ?

 春代は疑問を抱く。セツと関係が深い人ではなければ、あいつ呼ばわりはしない。。