「札作りを教えていただけないでしょうか」

 春代はセツに教えを乞う。

 その言葉にセツは反射的に顔をあげた。それから、ありえないと言わんばかりの顔をした。

 セツは春代を見放したのだ。直接、危害を与えなくても、幼い娘を見放したことには変わりはない。それなのに春代はセツを恨んでいなかった。

「わたくしを許してくださるのですか・?」

 セツは震えた声で問いかける。

 それに対し、春代は困ったような顔をした。。

「私はお母様から嫌がらせを受けていませんよ」

「ですが、あなたを見放してしまったでしょう」

「陰陽師としてしかたがないことです」

 春代は両親からの愛を求めるのをずいぶんと前に諦めてしまった。陰陽師の家系に生まれながらも、陰陽術の才能がないのだからしかたがないことだと自分自身に言い聞かせて生きてきた。

「怒ってもいいのですよ、春代……」

 セツは怯えながら言う。

 怒られてもしかたがないことをしてきた。許されないと思って生きてきた。

 しかし、春代は困ったような顔をするばかりだ。

「怒りませんよ、お母様」

 春代はセツの手をゆっくりと離した。

「あなたの待遇を悪くしてしまったのは私の責任ですから」

 春代はゆっくりと頭を下げた。

「ごめんなさい。お母様」

「謝らないでちょうだい。あなたに謝られたら、わたくし、どうしたらいいのか、わからなくなります」

 セツは慌てて春代を止めた。

 頭を下げさせるわけにはいかなかった。

「お母様。私、お母様に同情をしてしまいました」

「同情?」

「はい。私と静子様の間にはさまれている状況には同情をしてしまいます」

 春代の言葉にセツは顔色を変えた。

 青ざめていく。

 静子の命令により、この場に来ていることがばれてしまったことを恐れたのか。それとも、顔を殴ったのが静子だということに気づかれたと思ったのか。どちらにしても、春代に対して後ろめたいことには変わりはなかった。