幽世は自由だ。それぞれの種族に別れて暮らしている地域もあれば、共存をしている地域もある。しかし、人に対する好奇心旺盛なあやかしも多くいるのが現実だ。

「それを紅蓮様には祓っていただきたいのです」

 セツは一歩も引かなかった。

 覚悟を決めたような視線は春代と同じだ。

「俺は追い返すくらいしかしない」

「それだけでも充分です。春代を危険な目に遭わせなければ、わたくしとしては他に臨むことはありません」

「酷く矛盾しているな」

 紅蓮はセツの発言が矛盾していると指摘した。

 ……矛盾していますね。

 静子を推すような真似をしたり、静子を警戒するような発言をしたりとセツの言葉には一貫性がない。

「お母様」

 春代はセツに声をかけた。

「お母様はなにを望まれているのですか?」

 春代は問いかける。

 セツの望みがわからなかったのだ。

 ……ひどく驚いた顔をなさるのですね。

 なぜ、驚かれているのかさえも春代にはわからない。

「……娘の幸せを願う権利など、わたくしには、ありませんが」

 セツは俯いた。

 春代を見放したのは事実だ。紅蓮の出現により、春代の札作りの才能が開花したとはいえ、いまだに春代を下に見る者は多い。

「それでも、たった一人の娘を幸せにしてくださる殿方なのか、試させていただきました」

 セツは頭を下げた。

「疑ったことをお詫び申し上げます」

 セツの言葉に対し、紅蓮は反応を示さなかった。

 その代わり、視線を春代に向ける。

「お母様」

 春代はセツに声をかける。

 紅蓮が返事をしないのならば、代わりに返事をするのは妻の役目だ。

「札を張られたのはお母様ですか?」

「……はい。わたくしがやりました」

「札はすべて燃やしてしまわれましたが、とても精巧なものでした」

 春代はセツの手に触れる。