「紅蓮様を手に入れる為ならば、静子様は春代を亡き者にしようと企んでおいでです」

 セツの言葉に嘘はなかった。

 春代の母親として忠告をしたのだ。

「春代は俺が守るから、不要な心配だ」

 紅蓮は春代の肩に腕を回す。

「今の俺は春代を通じてしか視えない。神宮寺も劣ったものだ」

「春代に才能はありません」

「いいや。見鬼の才は誰よりも飛び抜けている」

 紅蓮はセツの言葉を否定した。

 セツは酷く驚いた様子だった。

「見鬼の才は陰陽師にとって必要不可欠の才能です。ですが、それだけでは陰陽師にはなれません」

 セツは語る。

 陰陽師という仕事を見て育ったからこそ、断言できた。

「春代は陰陽師にとって無能なのです」

 セツは春代を見ない。

 ……無能。

 久々に言われた言葉が心の傷を抉る。

 ……お母様も同じですのね。

 セツは陰陽師ではない。だからこそ、当主の妹でありながらも侍女として働いている。

「あやかしも視れず、札を放つだけが陰陽師か」

 紅蓮は笑った。

「ずいぶんと落ちたな、神宮寺」

「時代と共に衰退傾向にあるのは否定できません」

「さようか。あやかしにとって生きやすい時代になったものだ」

 紅蓮の言葉にセツは顔をしかめる。

 ……話の内容が理解できません。

 春代は置いてきぼりだった。

 ……あやかしが生きやすいのは大変なことではないでしょうか。

 紅蓮は笑っている。

 あやかしである紅蓮にとって、あやかしが生きやすい現世になるのは良い傾向だ。天敵とも呼べる陰陽師が衰退しているのならば、なにも怖いことはない。

「これから幽世から現世に来るあやかしは増えるだろう」

 紅蓮は予言した。
 天敵の減った場所に住処を移すのは普通のことだ。