「俺に謝ってどうする」

 紅蓮は機嫌が悪そうに返事をした。

「春代に謝罪をしろ」

 紅蓮はセツに命令を下した。

 春代はそれに対し、戸惑っていた。

 ……謝ってもらうことがありません。

 心当たりがなかった。

 十数年と会話をしてこなかった。母親だと言われても幼い頃の記憶の中の母親と、目の間にいるセツとでは印象が違いすぎて、心の整理がつかない。

 虐げられている子を放置するのも虐待だということに、春代は気づいていなかった。

「春代」

 セツは震える声で春代の名を呼んだ。

「お前を生贄に推薦したのは、母である私です」

「え……」

「神宮寺家で生きていくよりは神様の生贄になった方が良いと判断したのです」

 セツの告白に春代の心は揺れる。

 ……どうして。

 両親の関心は失った。

 しかし、生贄に推薦したのが母親だったと知りたくもなかった。

「本来の生贄は、静子様でした」

 セツは嘘を吐いた。

 そうするように静子から指示されていたのだ。

 その嘘を紅蓮は見抜いていた。

「未来のある若者よりも、才能のない我が子を生贄にと当主に頼み込みました」

 セツは頭を下げたまま、言葉を口にする。

 嘘が混じった本音だった。

「……本当ですか?」

 春代も違和感を抱いていた。

「お母様は私を生贄に選んだのですか?」

 春代は問いかける。

 それに対し、セツは頷いた。

「そうです。お前を生贄にするように頼み込みました」

 セツは肯定した。

「本来は紅蓮様のお嫁様に選ばれるのは静子様でした。それを私の我儘で変えてしまったことを、心より、お詫び申し上げます」

 セツは再び紅蓮に謝罪をした。