無能の生贄は鬼と契りを交わす

「それはできませんわ」

 静子は震えながらも言い返す。

「妖怪や悪霊によって困っている方がいる限り、陰陽師は戦わなければなりません」

 静子は言い切った。
 その姿は立派な陰陽師そのものだった。

「ですが、対話が可能か、検討してみるのも良い手だとは思いますわ」

 静子は背を向けて歩き始める。

「……わからんな」

「なにがですか?」

「良いやつなのか、悪いやつなのか。春代に敵意を見せているのは悪いやつに決まりだが、話がわかるやつでもある」

 紅蓮は首を傾げた。

 ……敵意を向けられていたのでしょうか。

 春代は気づいていなかった。

 指摘されるまで静子の視線にすら気づかなかった。

「私のことは気になさらないでください」

 春代は紅蓮を見上げて笑った。

「生贄が陰陽師になるのが気に入らなかったのでしょう」

 春代は生贄だった。

 それは事実だ。

「自尊心の高いお方ですから」

 春代の言葉を聞き、紅蓮は頷いた。

 ……いい人と言い切れなくて申し訳ないわ。

 直背的な嫌がらせを毎日のように受けてきた苦しみは消えない。なにより、紅蓮の関心が春代ではなく、静kに向けられるのが嫌だった。それを恋心からくる嫉妬だということに春代は気づいていない。

「そういうものか」

「はい。そういうものなのです」

「人間は複雑だな」

 紅蓮は感心したようだ。

「鬼ならば力比べで勝負をする。言葉で牽制なんて行動はしない」

 紅蓮は語る。

 鬼ならば鬼らしく、力で物事を抑え込む。紅蓮はそれが苦手だった。だからこそ、父親の作った組織を抜け、自由気ままな独り暮らしをしていたのだ。

「俺は苦手だがな」

 紅蓮は苦笑した。