無能の生贄は鬼と契りを交わす

「家の場所はわかるかい?」

「ここは現世だ。幽世に戻れば家があるだろ」

「……現世?」

 大首は首を傾げて、頭を一回転させた。

 現世にいる自覚がなかったようだ。

「境界線を跨いだんだろう」

 紅蓮は大首に声をかける。

 そうすると、大首はにたりと笑いながら後ろを向いた。

「家に帰るかね」

 大首はそう言い残し、姿を消した。

 ……すごいです。

 春代は妖怪を攻撃して消滅させる方法しかないと思っていた。しかし、紅蓮がしたのは大首の間違いを指摘し、元の場所に戻らせる方法だ。

「紅蓮様。やりました。大首を追い返しました!」

「道を教えただけだが」

「それでも、陰陽師にはできなかったことです!」

 春代は興奮していた。

 紅蓮以外の妖怪を目にするのは初めてだった。陰陽師としての才能はないと見捨てられた幼少期から今に至るまで妖怪を見たことがなかった。

「……ありえないですわ」

 静子は震えながら声をあげた、

「妖怪は滅するものですのよ。追い返したところでまだ来るのに決まっていますわ」

 静子は過激な思考の持ち主だった。

 母親がそう教え込んできたのだ。

「雑鬼が湧くのと同じ原理ですわ」

 静子の言葉に紅蓮は眉間にしわを寄せる。

 鬼として聞いていられない暴言だった。

「妖怪を封印して回っているのは神宮寺か」

「封印はいたしませんわ。すべて滅します」

「大けがの妖怪がいるのは、お前たちの仕業か」

 紅蓮は振り返った。
 牙を剝き出しにした姿は静子の理想像とは違う。恐ろしいものだった。

「いたずらに妖怪を相手にするのはやめろ」

 紅蓮は忠告をする。
 内心では陰陽師と分かち合えないとわかっていた。