代々祠を守ることにより異能を授かっている家系だとは知っている。その祠に異常でも起きたのだろうか。

「お姉さまは献身的ですわね」

 静子は笑う。

 静子は多くは語らない。

 濡れている個所を避けるように歩き、膝をついた姿勢のままの春代を見下すような視線を向けた。

「水を被ったところで竜神様のご加護は得られませんわよ」

「……はい」

「わかっているのならば、よろしくってよ」

 静子は神宮寺家が誇る異能力者だ。

 母方の血である斎宮家の水の異能力者であり、代々火の異能力者を輩出してきた神宮寺家では異質な存在であった。しかし、強力な能力者である為、大切に扱われてきていた。

 その為、多くの人が静子には逆らえない。

 異母姉である春代もその一人だった。

「あぁ、嫌だわ」

 静子はぼやく。

 わざとらしく、春代を足蹴りして廊下から庭へと蹴り飛ばす。

「あら、ごめんあそばせ。わざとではなくってよ」

 静子は笑いながら言った。

 庭に転がされた春代はゆっくりと姿勢を戻す。それから、当然のように土下座をした。

「生贄にお似合いの姿ね」

 静子は同情をしない。

 それが春代の価値だというかのようだった。

「さようならですわね、お姉さま」

 静子はそう言って立ち去って行った。

 静子たちが立ち去ったのを確認してから、春代は立ち上がる。そして、廊下に上がり、再び雑巾がけを始めた。

 その姿を見ていた侍女はなにも言わなかった。

 内心では見下しているものの、無能の一般人に生まれたというだけで使用人以下の扱いを受けているのには、さすがに同情をするしかなかった。


* * *


 新月で足元が見えないほどの暗い夜道を歩かされる。

 春代は花嫁衣裳を着せられ、いつもならば、許されない下駄もはかされていた。向かう先は神宮寺家が管理している祠である。