「紅蓮様。わたくしの力を見せてさしあげられないのが、残念ですわ」

「そうか」

「わたくし、竜神様に愛されておりますのよ。紅蓮様とも相性がいいのに決まっていますわ」

 静子は紅蓮の手に触れようとして、弾かれた。

 それから汚いものに触れたかのように紅蓮は自身の手を払う。

「竜神の愛し子?」

 紅蓮は笑った。

「それを自称し続けてみろ。竜神の怒りを買うぞ」

 紅蓮は忠告した。

 それに対し、静子は怯えていた。春代にはわからない程度に威圧していたのだ。

「紅蓮様は竜神様とお知り合いなのですか?」

「腐れ縁だ。親父の飲み仲間でな」

「さようでございますか」

 春代は納得したようだ。

「静子様のお力は確かなものです。竜神様のご加護があってのことではございませんの?」

「それはない。あれは嫁一筋だ」

「まあ、ご結婚されておりますの? 初めて聞きました」

 春代は純粋に驚いていた。

 静子の力が竜神の加護を得たものだと大げさに広げていたのは、静子の母親だ。水の陰陽術に優れているだけであるとわかっていたことだろう。しかし、次期当主の婚約者の座を得る為には、大げさな噂が必要だった。

 静子はそれを信じていた。

 だからこそ、紅蓮の言葉を聞き、首を左右に振った。

「わたくしの力は竜神様の加護によるものですわ!」

 静子は主張する。

「きっと、紅蓮様のお知り合いではない竜神様からの加護に違いありません」

 静子は強がってみせた。

 竜神がどれほどの数いるのか、静子たちは知らない。それが名前ではなく、種族名だということもわかっていない。

「依頼現場に案内いたしますわ。紅蓮様のお手並みを拝見させていただきます」

 静子は背を向けて歩き出した。

 その後ろを春代と紅蓮は並んで歩く。紅蓮は春代の手を優しく繋ぐ。

「手を繋いでくれ。そうしないと、あの女から視えなくなる」

 紅蓮はこっそりと春代に告げた。