「竜神様のご加護を得ているのはわたくしですわよ」

 静子は水の異能力者だ。

 それを自慢にしてきた。

 竜神の加護を得ているというのは事実ではなく、それほどの実力者であると周りが言い出した言葉である。

「炎の化身と呼ぶべき紅蓮様の隣にふさわしいのは、わたくしでしょう」

 静子は断言した。

 あの日の炎に魅せられてしまった。

 その炎の化身の隣に並ぶべき自分の姿を想像して、頬を赤く染める。

「その通りでございます」

 侍女は静子の言葉を全肯定する。

 怒りの矛先が自分に向けられるのを避ける為だった。

「紅蓮様には目を覚ましていただかなければなりませんわ」

 静子は本気だった。

 選ばれるべきは自分だと信じて疑わない。

「お姉さまなんかにわたくしが負けるはずがありませんもの」

 静子は春代が嫌いだった。

 同い年なのにもかかわらず、生まれが三か月早いというだけで異母姉になった春代を皮肉を込めてお姉さまと呼ぶ日々は、好きではなかった。

 か弱く、健気で、役に立たない。

 それなのにもかかわらず、泣き言を言わない。そんな姿がなによりも嫌いだった。

「そうですわ。お嬢様」

「お嬢様が無能に負けるはずがありませんわ」

「自信を持ってくださいませ、お嬢様」

 侍女たちは静子を応援する。

 本気で言っているのだ。

 無能とばかにされ続けた春代に勝ち目などないと信じていた。

「お前たち……!」

 静子は感激したかのような表情を作る。

「そうですわね、わたくし、弱気になっておりましたわ」

 静子は思ってもいない言葉を口にした。

 負けるつもりなどなかった。


* * *


「くしゅんっ」

 春代はくしゃみをした。

 それに紅蓮は驚いた。