* * *


「なんですって!?」

 静子は怒り狂っていた。

 その怒りの矛先は春代に手紙を届けた侍女に向けられている。以前、侍女が春代にしたように、静子は侍女を蹴る。

「手紙を受け取りもしなかったというの!?」

「申し訳ございません!」

「謝れば許されるって問題ではありませんわ!」

 静子は侍女を蹴り飛ばした。

 廊下に蹴りだされた侍女は震えながら、土下座をする。

「わたくしの手紙を受け取っていただけないなんて!」

 静子は愛を綴った手紙を託していた。

 紅蓮がいかに美しく、かっこよく、なによりも自分にふさわしいことを綴った愛の手紙は読まれることもなく、灰にされてしまった。

 そのことを侍女は素直に告げてしまった。

「なんて。なんて、ことですの」

 静子はその場に座り込む。

「そんなところすらも、かっこいいなんて……!」

 それから、部屋で待機していた別の侍女を睨みつける。

「わたくしをもっとも美しい姿にしてちょうだい!」

 静子は泣かない。

 それどころか、愛の炎は増すばかりだった。

「どうやってでも、手に入れて見せますわ。紅蓮様」

 静子は初めて恋を知った。

 それは叶わないものだと知っていた。

 しかし、簡単に諦めるわけにはいかなかった。神宮寺家の中でもっとも美しいと称賛を受けてきたのは静子だ。異母姉の春代ではない。

 静子が手に入れられにものを春代が手に入れているのが許せなかった。

「しかし、あの方は恐ろしゅうございませんか?」

 髪飾りを選んでいた侍女は思わず口にしていた。

 当主の次に強いはずの彰浩でさえ、手が出せなかった相手だ。その場にいた陰陽師たちは鬼の力を知り、戦いを知らない使用人たちは恐怖で怯えていた。

「なにをおっしゃるの」

 静子は着物と袴を選ぶ。

 もっとも美しい組み合わせを探しているのだ。