春代の生活は一変した。
 離れの庭を手入れしていれば、通りかかった使用人に頭を下げられる。今までならば罵声か石を投げられたところだろう。

「春代様」

 名を呼ばれて振り返る。
 生贄に選ばれる前日、春代に水をかけたあの侍女だった。

「お仕事の依頼が来ました」

「……紅蓮様を呼んでまいります」

「いえ。こちらを春代様から紅蓮様にお渡しくださいませ」

 侍女はていねいな言葉遣いで接してくる。

 それが気味が悪かった。

「受け取ります」

 春代は手紙を受け取った。
 中身は陰陽師として仕事が書かれているのだろう。

「それから、こちらもお渡しくださいませ」

「それはなんですか」

「静子様よりお預かりいたしました紅蓮様宛の手紙でございます」

 侍女が差し出した手紙を受け取れなかった。

 ……静子様。

 異母妹にあたる静子は強欲だ。

 模擬試合の時の静子の言動を忘れられない。明らかに紅蓮を狙っていた。

「受け取れません」

 春代は拒絶をした。

 静子が紅蓮を思い書いた手紙など触れたくもなかった。

「紅蓮様は私の旦那様です。そのような手紙はお控えくださいませ」

「そうだな。よく言えたぞ、春代」

「紅蓮様!」

 いつの間にいたのだろうか。

 紅蓮は春代の隣に立っていた。あいかわらず、気配を感じられない。

「燃やしてしまえ」

 紅蓮がそういうと侍女が手にしていた手紙に火が付いた。

 慌てて侍女は手紙から手を離す。

 瞬く間に燃え上がった手紙は灰になってしまった。

「そこの者。流行りの袴とやらを何着か用意しろ」

 紅蓮は指示を出す。