========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
熱田順子・・・劇団の劇団員。小雪の中学の時の同級生。
山村小五郎・・・順子の劇団の座長。
=====================================
※京都文化芸術会館
京都における文化芸術活動の拠点として、京都府開庁100年記念事業により、1970年に開館しました。
400人収容のホールをはじめ、2つの大型展示室、会議室、和室、録音室などの設備があります。演劇・古典芸能・舞踊・音楽などの公演や発表、及び美術・工芸・書道などの作品展示に広く利用され、京都における文化芸術の創造・発信の中核施設として機能しています。J・B・プリーストリー原作の映画は、劇作家・内村直也によって翻案劇として俳優座で上演され、数々の劇団によって、公演されました。この翻案劇はテレビドラマ化もされています。
午後6時半。上京区河原町通広小路。京都文化芸術会館。
舞台「夜の来訪者」の会場が始まった。
神代チエは、受付を手伝い、入場者を監視していた。
午後7時。
「夜の来訪者」が上演開始した。
第1幕が終った。刑事役の「さてと・・・。」という台詞と共に。
幕間。休憩時間。
前から2列目の上手側の3席にいた若者達3人は、こそこそと相談をし、トイレに立った。
15分の休憩が終り、第2幕が開始した。
若者達は、大声をあげて妨害しようとしたが、それは敵わなかった。
若者達の後ろの席に陣取った小町と小雪が、後ろからバスローブを被せて、小町が後頭部を叩いて気絶させたからである。
1時間後、終演し、出演者達が幕の前に集合して、お決まりの『カーテンコール』が始まった。
私服の茂原と、刑事二人が若者達3人に手錠をかけ、連行した。
午後10時。河原町署。取り調べ室。
茂原刑事が取り調べをしている。
「無茶苦茶ですよ、刑事さん。受付の女の子が、我々が声援を送ろうとしたら、バスローブかけて、気絶させて。逮捕する相手は、あいつらですよ。」
「ふうん。ほな、『よい刑事』は退場やな。警視、後頼みますわ。帰って晩飯食おう。」
茂原は退場し、墨でPCに向かっていた女性警察官が言った。
3人の目の前に現れた女性警察官は、言った。
取り調べ室の外。男達の悲鳴が聞こえた。
茂原は、フフッと笑った。
東山署の署長神代と副署長船越は、ひそひそ話をした。
「ストーカーはイカンアカンやろ。」「そうです。まして公演の妨害は、威力業務妨害ですな。」
「ほな。署長、副署長、お先に失礼します。」「ん、ご苦労さん。」
翌日。午後2時。京都文化芸術会館。
搬出作業が終った、劇団座長山村は言った。
「ありがとうございます。これで、安心して芝居に取り組めます。迷惑行為をされても、普通は泣き寝入りです。熱田君は、いい同級生がいた。」
「小雪ちゃん、小町さんもお元気で。助かりました。これで吹っ切れます。」
順子も頭を下げた。
トラックを見送った後、小雪は「小町ちゃん。どないしてイジメたん?」と尋ねた。
「一生、反省して貰うようにしただけ。『半玉』でも子供は作れるけどな。」
「オムライス、食べに行かへん?ちょっと、変わった店やねん。」
「行こう行こう。」ミニパトの女性警察官が呆れて見ていた。
―完―
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
白鳥巡査・・・警邏課巡査。実は・・・。
=====================================
どこの誰かは知らないが、誰もが皆知っている。
あいつは、あいつは、暴れん坊。それでも正義の血が騒ぐ。
今日も小町が正義を守る。暴れん坊小町は今日も行く。
「うるさいっ!!」
すみません。
チエは、父に言われて、『自転車違反、一斉取り締まり』に参加していた。
「GW明けまで待っていられん。京都は年中観光地や。」の本部長の一言で、開始した。
正午。中京区。京都市役所付近。
路地を、スマホ片手に自転車が走っている。
そのすぐ側を走る何かがあった。
大学生の田島幸太は、何かにぶつかって、自転車ごと転倒した。
倒れた、すぐそばに、パネルがあった。『交通ルールを守りましょう』という文字と共に、女性警察官がニッコリと笑っていた。モデルは、チエ自身だった。
田島は、パネルとチエを見比べた。
驚く田島にチエは言った。「交通ルール違反で、逮捕する。」
冷たい金属の2連の輪は、田島の両手首に嵌められた。
「運転中のスマホ、禁止。知ってるよな。」
「ちょっと、見て・・・。」田島は最後まで言えなかった。田島は、股間が冷たくなっていくのを感じた。
「正当防衛や。こうむしっこ妨害や。」
チエは、持っていた自分のスマホの動画アプリを停止して、本部に送信した。
警邏の警察官が、自転車に乗ってやって来た。
「白鳥巡査。あと、頼むわ。『三条』の方で何かあったみたいや。」
「了解しました。」警察官は、チエに最敬礼をした。
チエは、走り出した。
「お巡りさん、僕、う・・・。」「訴えたら、負けるで。一生棒に振りたいんか?」
ICレコーダーを差し出した、警察官の言葉に、田島は呆然とした。
午後1時。京阪三条駅。京津線の車両前。
外国人数人がペンキ(ペイント)を適当にかけている。
チエは、目にも止まらぬ早さで、彼らを『足払い』した。
そして、側にあったペンキを彼ら自身にかけた。
「誰か、『ぶぶ漬け』、持って来たってぇ!!」と、チエは叫んだ。
売店のおばちゃんが、適当に作った丼を持ってきて、コケた。
「ああ。勿体ない!!」
辺りにいた、人達は爆笑した。警官隊がやって来た。
チエは、英語で何か言った。
「警視。ご苦労様です。」と、大きな声で茂原は言って敬礼した。
午後4時。東山署。取り調べ室。
出てきた茂原は、チエに尋ねた。「お嬢。あいつらに何言うたん?」
「うん?ええ思い出話出来たなあ、って言うただけ。スラングで。」
「ふうん。こいつらには、叩かヘンかったんやな?」
「ペンキで、制服汚れるやん!」「さよか。」
茂原は、また取り調べ室に戻った。
副署長がやって来た。「署長がお呼びやで。八つ橋と玉露用意しといたで。」
「ありがとう。」
チエは、スキップして、署長室に急いだ。
彼女が向かうところに敵なし。今のところは・・・。
―完―
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。
=====================================
午前7時半。東山署。署長室。
「盗撮?」「ああ。JR京都駅が一番多いらしい。地下鉄と違って長いやろ?」
「オッケー!!」
言うが早いか、チエは飛び出していった。
すれ違った副署長の船越は言った。「お嬢は、いつも元気やな。」
午前8時半。JR京都駅。
通勤客や観光客でごった返していた。チエは、相棒の女性警察官と双眼鏡で見ていた。
最近は、パンツスーツの女性警察官が多いが、廃止された訳ではない。恐らくドラマ等の影響だろう。チエは、いつもスカートだし、相棒はパンツスーツだ。
「警視。発見しました。2番目のエレベーターのスーツの男が挙動不審で、前の女性のスーツケースの陰から、自分の鞄を前に出しています。
「よし。B班に連絡。」そう言って、チエはエレベーターに近づき、スーツケースの女がエレベーターを上り切ると、右腕を差し出し、ラリアートを男にお見舞いした。
「な、何をする?」と男が言うので、周囲を見回し、女性が多いのを確認してから、チエは「盗撮は、おんなの敵や。そやな?みんな。」と大きな声で言った。
女性達は、頷くことで同意した。
チエは、男に往復ビンタをし、股間を踏んだ。
応援の男性警察官達が来た。
「抵抗するので、止むなく倒した。迷惑防止条例違反に足して、公務執行妨害や。ひったてい!」と言った。
男性警察官達が逮捕連行するのを確認したチエは、相棒の楠田幸子に報告を受けた。
「警視。烏丸御池の長愛銀行で強盗です。」「よっしゃ、いくで。」
チエが走り出したので、慌てて楠田はついていった。
午前9時半。烏丸御池。長愛銀行烏丸御池支店。
チエは、正面玄関から入って行った。
犯人は1人。拳銃を持っているが、組み付いている行員はいない。行員達は、言われるがまま、金の用意をしていたところだった。
「誰や、お前は?」と拳銃を向けた犯人が言った。
チエは、返事をする代わりにスライディングして、男の脚の間に滑り込み、股間をグーパンチした。
「な、なんじゃ、こりゃあ!」と言って、男は前のめりに倒れた。
チエは、男を立たせて、肩を脱臼させた。
午前10時半。東山署。取り調べ室。外。
中で悲鳴が聞こえる。
船越が入って行く。
東山署。取り調べ室。中。
船越が、「お嬢。お座敷や。西陣の宝石店で盗難事件発生。」と、言った。
チエが出て行くと、船越は、優しく被疑者に「さ。良い刑事悪い刑事普通の刑事。どれにする?」と尋ねた。
銀行強盗男は、「あの人以外」と、素直に答えた。
「せやな、皆そう言うネン。」
午前11時。パトカーの中。
「なあ、楠田。京都には、警察官何人おるねん。何で私だけ・・・。」
「警視が有能なだけ。皆見習いみたいなもんですわ。」
「そ、そうか・・・。」
楠田は思った。署長は正しい、と。何しろ、神代チエだけが、検挙率100%、完落ち率100%なのだ。『褒めれば伸びる子』なのだ。
―完―
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
白鳥親吉巡査・・・警邏課巡査。
楠田幸子巡査・・・チエの相棒の巡査。
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午後2時。東山署。殺人事件捜査本部。
「昨日午後3時半ごろ、京都市伏見区深草西浦町8のマンション『おなかから血が出て、人が死んでいる」と部屋を訪れた30代女性が110番した。この部屋で1人暮らしをしていたとみられる美濃部浩さん68歳が見つかり、死亡が確認された。司法解剖の結果、死因は腹部の刺し傷による出血性ショックで、府警は事件に巻き込まれた可能性もあるとみている。現場は、京都市営地下鉄烏丸線竹田駅から東に約600メートルの住宅街や。美濃部さんは室内で見つかり、上半身裸だった。先週死亡したとみられる。発見者の女性は美濃部さんの知人で、美濃部さんと連絡がつかないことを不審に思い部屋を訪問した。玄関の扉は施錠されておらず、室内に荒らされた形跡はなかった。また、大きな物音や争う声は聞こえなかった、と近所の人間は言っている。』と、船越は一気に言った。
「おっちゃ・・・副署長。ガイシャの仕事は?」と、チエは船越に尋ねた。
「週刊誌記者やそうや。扇風機はあったけど、壊れてた。エアコンもや。落ちぶれたもんやな。凶器は見つかってないが、畳の下から、こんなもんが出てきた。」
船越は、ホワイトボードに、何かの記事の切り抜きの写真を貼った。
「祇園祭の写真やな。もう、そんな季節なんやなあ。」と、茂原刑事が言った。
地取り足取り交友関係。『お決まり』の班分けがなされ、捜査員が散るところに、楠田巡査が小雪と一緒に、捜査本部に飛び込んで来た。
「大変です。『マル』が出頭してきました。」
午後2時半。東山署。取調室。
マル(被疑者)の日村吾一は語った。
実の息子が、祇園祭の『稚児』に選ばれた。息子の吾郎は、昔離婚をした際に、知人の家に養子にやった。かねてから、『稚児選び』に疑問を持っていた美濃部は、あるキッカケから、今年の稚児である、音前吾郎が音前家の実子でないことを世間にばらすぞ」と音前家に脅しをかけてきた。
話を聞いた日村は、美濃部に会いに行き、口論の末、殺してしまった。
京都の祇園祭の『神様のお使い』である『お稚児さん』には、選定条件がある。
その選定基準は、大体次の五つの条件をクリアした男の子が選ばれる。
(1)長く京都市内に住んでいる老舗の子息であること。
(2)小学3年生〜中学1年生くらいの体重が重すぎない子であること。
(3)祭に理解があること。
(4)神事を欠席しないのはもちろんのこと。
(5)家族全員がその子を支えることができること。
詰まり、記者が言うのは、『選定に不適正』だということだ。老舗の息子でも、実子ではないのだから、と。
取り調べに立ち会った、チエは、「バラさん、ちょっと時間くれ。」と言って、飛びだして行った。
午後4時。
白鳥の運転する白バイは、何とか、巡行に間に合った。
後ろには、警察官の制服のチエが乗っていた。
午後5時。東山署。取調室。
茂原刑事が、デジカメを被疑者の日村吾一の前に置いた。
動画が再生されている。画面に映っているのは、血を分けた息子吾郎の『稚児』が乗った鉾が移動していく様子で、何故か画面の対象は固定されていた。
「おじょ・・・神代警視が撮影したんや。白バイの後部に乗って。警察官自ら、法律破ったらアカンやけどな。いつか、出られる時があったら、また見たらええ。」
僅か10分の動画だったが、日村には充分だった。再生が終るまで、茂原は、外に繋がっていない窓の方を見ていた。
午後7時。神代家。
お手伝いさんが帰り、食事を終えたチエは、いきなり全裸になり、「ちゃん、お風呂!」と言った。
神代は分かっていた。チエが甘えたい時、いつも一緒に風呂に入りたがる。
子供の頃のように。
中学生にでもなれば、大抵女の子は父親から『卒業』する。体が『おんな』になっていくからだ。
チエは、何か感情の動きがあると、子供にかえりたがる。
チエの同級生である小雪は、時々『ファザコン』と揶揄う。
自分でも自覚があるのだろうか?チエは嫌がらない。
「ちゃん。あの子、吾郎君な。ウチのこと、別嬪って言うたで。」
「ほな、花婿候補やな。」「ウチの花婿は、ちゃん、でええ。」
「はいはい。先に上がるで。」
チエが風呂から上がると、神代は、珍しくビールを飲んでいた。神代は、アルコールが弱い方だ。だが、飲みたかったのだ。
「茂原が、珍しく褒めてた。」「バラさんが?」「多分、日村は真面目に更生するやろ。元々正当防衛やサカイな。」
「ちゃん、子守歌歌って。」
「あねさん、ろっかく、たこにしき・・・。
ファザコンが治らなくてもいい、と思いながら、神代は、京都の童歌を歌ってやった。
―完―
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
白鳥親吉巡査・・・警邏課巡査。
楠田幸子巡査・・・チエの相棒の巡査。
=====================================
午後4時。祇園。
楠田とミニパトでパトロール中だったが、小雪の要望で、途中で拾い。祇園に届けた。
「チエちゃん、ごめんやで。タクシー代わりに使ウテしもて。」と、小雪は謝ったが、「かめへんかめへん。どうせ市内循環するンヤから。」
小雪が去った後、警察無線が入った。
丸山公園で、人質を取って、男が暴れているということだった。
「先、行くで。」そう言ってチエは走りだした。
午後4時半。丸山公園。瓢箪池近く。
覚醒剤でもやっているのか、明らかに尋常で無い様子だった。
チエは、小石を拾って、『ど真ん中』にアンダースローでストレートを投げた。
男は、もんどりうって、倒れた。
付近に異臭が流れた。
午後5時半。東山署。取り調べ室。
「まだ痛いか。そらあ、痛いよな。普通なら、即病院やけどな。クスリで麻痺してるんやな。住所と名前だけでエエで。救急隊員さんも待ってるし。」
「田ノ上啓介。東山区山科・・・痛い、痛い、痛い!!」
取り調べ室にチエが入って来た途端に田ノ上は痛みを訴えた。
間もなく、田ノ上は担架で救急車に運ばれ、救急車は発車した。
多分、救急車の中では、あまり痛い痛い言わんやろな。」見送った、茂原が言った。
「相乗効果か。人質になった娘さんは、左腕を切られてたが、軽傷や。ほな、茂原刑事。出張、頼むで。」と、副署長は言った。
午後7時。神代家。
夕食と食べながら、神代は言った。「コントロールがええノンも、考えモンやな。他のとこ狙う気にはならへんかったんか、チエ。」
「何も考えへんかった。結果オーライやろ。薬物は、どっから?」「拾ったんやて。」
「んな、アホなあ。」「親子漫才やってるとこはウチくらいやろな。小雪ちゃんは、パトロンいてへんのか?」「知らん。」「ふうん。」
「ちゃんは、再婚セエへんの?」「相手、おらんがな。ヘンな瘤、おるし。」
「ウチ、肥えてへんで。」「小太りねえさん、てか。みんな、こんなチエ知らんからなあ。『暴れん坊小町』って、京都府警で知らん人間はおらん。」
「自慢の娘やろ。」「はいはい。明日も活躍しておくれやす。」「へえ、おおきに。」
今夜の漫才は、長くなりそうだった。
―完―
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
楠田幸子巡査・・・チエの相棒の巡査。
堂本剛志・・・堂本クリニック院長。
衣笠温子・・・堂本クリニック看護師。
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午後4時。河原町丸太町。和菓子屋の『やまみち屋』。
「いつもお世話になってますさかいに・・・。」と、店の主人から、そばぼーろを受け取るチエは、出てきたところを後輩の楠田がフリーズしてるのを発見した。
ミニパトの前に、男が倒れていた。「何、してんの?」
チエは、しゃがんで素早く男の脈と熱を計った。「救急車。あ、堂本さんとこが近い。楠田、手伝って。」
チエは、ミニパトの後部座席に男を押し込むと、3軒先の堂本クリニックに移動した。
「オッチャン、オッチャン。急患!」と、駆け込んだ。
看護師が驚いて言った。「チエちゃん、どうしたん?」
「3軒先で倒れてた。熱中症かもしれん。」
騒ぎを聞きつけた院長が出てきて、他の患者にソファを譲らせ、男を寝かした。
「脈も熱も正常やないな。衣笠。すぐに、点滴の準備や。あ、それと、蜂に刺された後がある。それも処置せんとアカン。蜂の毒と熱中症のダブルパンチか。」
奥から出てきた看護師と衣笠看護師はストレッチャーに男を乗せた。チエと楠田も手伝った。
1時間後。茂原が、他の警察官を伴って、クリニックにやって来た。
「お嬢。持ちモンは?」茂原はチエに運転免許証と財布を渡した。
更に1時間後。つまり、午後6時。
クリニックに、警察から報せを受けた、西陣温子がやって来た。
西陣温子は、元祖西陣屋の社長だ。元祖西陣屋は、西陣織で有名な店だ。
「裏の川で作業した後、得意先回るって聞いてました。そこの、やまみち屋さんで、よう、そばぼーろ買ってました。」
「やまみち屋さんの前で倒れたのは、偶然やなかったんや。買いに来て、蜂の毒が回ったんやな。」
「ばらさん、この辺にライトバンあるんとちゃうかな?ちょっと探してくる。」と言って、チエが出ようとすると、楠田から警察無線が入った。
「駐車場の近くの電信柱にライトバンが追突しています。車検証の名前が、西陣さんです。」
鑑識が到着し、ライトバンから、蜂の死骸が見つかった。
ミツバチだった。堂本医師は、「スズメバチでなくて良かった。ミツバチみたいやから、アナフィラキシーショックも起る可能性無いやろ。」と言った。
午後7時。神代家。
「メシの前に、そばぼーろばっかり食べたら、へえ出るで。」
「へえ、さよか。なあ、ちゃん。堂本のオッチャンな。彼氏出来たら報告しいや、って言うてた。ウチの許嫁のこと知らんの?」「知ってて言うてるな。」
「好かん、たこ焼き。」「なんや、それ。」
チエは、今でも父と小学生ごっこ出来るのが嬉しかった。
―完―
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
楠田幸子巡査・・・チエの相棒の巡査。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
嵐山幸恵・・・小雪の母。
小郡源太・・・元入院患者の息子。
=====================================
午後4時。京都市左京区。上白川上野病院。
「チエちゃん、ごめんなさい。お茶も出さんと。」小雪の母、幸恵は車椅子のまま言った。
「気イ使わんといて、おばちゃん。すぐ帰るさかい。小雪ちゃん、遅いなあ。」
チエが、そう言った時、廊下の向こうが騒がしくなった。
看護師達が走っている。
チエは、向こうからやって来た、小雪に出くわした。
「チエちゃん。ごめんなさい。挨拶回り、遅うなってしもうて。何や、引きこもりみたい。」
「引きこもり?立てこもりやろ。ナースステーションで騒いでいるのは。」
「チエちゃん。今はスタッフステーションって言うんえ。男性の看護師さんもヘルパーさんも出入りしはるやろ?」
「スタッフステーションか。詰め所には間違いないな。何喚いてるんや。」
チエの問いに、「何か順番がどうとかで。前にな。ここに入院してた患者さんの身内らしい。院長がナイフで切りつけられたらしい。タオルで押えてるけど、出血してる。看護師さんらは、手出されへん。ガードマンも頼りにならんし、拉致あか・・・。」と小雪は説明したが。
言い終わらない内に、チエはスタッフステーションのカウンターに飛び乗り、いきなり、その男に飛びついて、袈裟固めをして、落した。
「そこのガードマン。会社はええから、110番して。」
「あんたは・・・。」「暴れん坊小町こと、神代警視や。控えおろう!」と小雪が言うと、皆、床に平伏した。
午後5時。東山署。取り調べ室外。
「今日は、早ウ帰れるな。」と言いながら、船越副署長が出てきた。
「なんでやねん!」と、腰に手を宛て、チエが言った。
「もう調書取ったさかいに、お嬢の好きなようにしてエエで。あ。レイプはアカンで。」
「はあ?」と言いながら、チエは取り調べ室に入った。
「先月、オヤジが亡くなったんです。」と、小郡源太は言った。
「それは、ご愁傷様です。」
「病院から朝方、亡くなりました、って電話が来ました。危篤の時に『緊急連絡電話1』の方に電話したけど、出られない。容態がますます悪くなり、亡くなった直後にもお電話したけど、出られない。それで、『緊急連絡電話2』のあなたに連絡しました。遺体の引き取りをお願いします、って。急いで駆けつけ、葬儀社に連絡してから看護師に尋ねたんです。」
「それで、『緊急連絡電話』の書き換えがあったことが分かった、と。」チエも憤慨して言った。
「義兄が見栄っ張りで、姉を唆して書き換えさせた。その結果、親の死に目に会わなかった。姉は、もしかしたら、と言っていたが、義兄は『明日にせえ』言って寝たらしいんです。」
「何とまあ。」「葬儀終った後で、喧嘩しました。父が亡くなる前から、父の通帳や、今入院している母の通帳、私の通帳も管理してやるから、などと抜かしていました。じっと我慢していたけど、身内にも病院にも腹が立った。何で、危篤で連絡がつかなかった時に、報せてくれへんかった、って院長に談判したんです。傷つける積もりは無かった。」
チエが取り調べ室を出ると、署長であり、チエの父の神代警視正が待っていた。
「どこ行く積もりや。チエ。院長の股間蹴っても問題解決にはならんぞ。」
「そやかて。」「院長は、俺の同級生や。転んで出血したけど、病院やから、すぐ手当出来た。こういったケースの場合は、他の親族の確認を取って、無闇に連絡先を書き換えへんように通達した、と言ってた。ナイフは『行方不明』やしな。副署長は書類紛失したらしいしな。」
チエは、神代の頬にキスをして、自販機まで走った。
「あんまり走ったら、廊下の底、抜けるで。」と、すれ違った茂原が言い、皆が笑った。
神代は、今夜も「ちゃん、風呂はいろ!」とチエが甘えるのを想像し、「甘やかし過ぎかな?」と思った。
―完―
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
楠田幸子巡査・・・チエの相棒の巡査。
金城神父・・・チエが日曜学校に通っていた頃の神父。
=====================================
※2019年7月18日昼前、京都アニメーション第1スタジオに男X(当時41歳)が侵入、バケツからガソリンを建物1階にまいてライターで着火したことにより、爆燃現象が発生した。結果としてスタジオは全焼、社員36人が死亡、33人が重軽傷と、日本国内の事件では過去に例を見ない大惨事となった。「京都アニメーション」の第1スタジオが放火され、社員36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った。現場となったスタジオ跡地では、亡くなった社員の遺族や京都アニメーションの八田英明社長など会社関係者およそ140人が出席して追悼式が開かれた。
2023年7月18日。午後1時。京都市伏見区。京都アニメステーションスタジオ跡。
チエは、追悼式に参加したかったが、父の警視正から、警備を命じられた。
京都府警宛てに、脅迫文らしき手紙が届いたからだ。
「5年前の悲劇は繰り返す。」
文面には、そうあった。チエは、小雪の影響で、アニメ会社のアニメが好きだった。
犯人は、「創作を送ったが、正当な評価は受けなかった。それどころか、私の創作の盗作を作品にした。」と言っていた。
当時、会社では一般公募は行っておらず、犯人に対して会社は「公募は行っておりません。従って、内容如何にかかわらず評価は出来ません。悪しからずご了承下さい。」と返答した。
他の会社の公募に応募してはどうか、という1文も添えたらしい。
放火をし、自分も大やけどを負った犯人の自宅からは、犯人が盗作と指摘した、同社の作品の電子版と、犯人が創作したと主張する文章がパソコンに残されていた。
捜査員は、首を捻った。両者は、アイディアの一部は似通った部分はあっても、盗作と言える程の共通した内容では無かった。
犯人の「妄想」に違いない、と司法の判断があった。
あれから5年。多くの犠牲者を出した事件の模倣犯か?
模倣犯には2種類ある。世間の注目を集めたいが為の「愉快犯」と、犯人を崇拝して、似た事件を起こす「信者犯」だ。
どちらにせよ、事件は起こしてはならない。だが、「初動の遅れ」と非難されても、事件が起ってからしか警察は動けない。
チエは、そのため、いつも苛立っていた。
警備をしている内、ミニパトに連絡が入った。
「先輩。山科の会社で、立てこもり事件発生。被疑者は、会社のビルの玄関に灯油をばら撒いて、何か喚いてるそうです。」
午後2時。山科。京都教育ビル。
「京都シナリオ教室という会社の自社ビルや。外階段はない。内階段はらせん階段や。犯人は、自分は盗作されたが、相手にしない会社に実行手段に出た、と言っている。」
先に到着している、茂原刑事が言った。
30分後。交渉に当たっている、他の刑事を尻目に、電動キックボードに乗ったチエは、消火器を背負って、強行突入した。
茂原刑事は、目を覆って、その場にしゃがみ込んだ。
到着するや否や、チエは、消火器で産卵する灯油の上に撒き、被疑者の体全体に吹きかけた。
平手打ちをしようとしたが、その右手に左手を添えて、万歳の格好をした。
「お手上げや。頭のおかしい相手は苦手や。ウチも大概頭がおかしいけどな。」
後を、刑事達に任せて、外に出たチエは、群衆の中の神父に体面した。
「はたかへんかったで。エエ子やろう、先生。」
「ああ、エエ子や。」と、金城神父はチエの頭を撫でた。
夕食後。
神代は、チエの後ろに回って、「エエ子や。神父さんに聞いたで。よう我慢したな。」と、言ってチエの頭を撫でた。
チエは、赤面しながら、衣類を投げ捨て、父の手を引き、風呂場に向かった。
親子は、まだ、チエが幼児の時のままだった。
風呂場では、チエの歓声が響いた。
―完―
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
金城神父・・・チエが日曜学校に通っていた頃の神父。
白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。
大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。
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午前9時。西京区。もろびと教会。
金城神父の前で、懺悔しているチエ。
「ウチ、張り倒したかった。あんな犯人の真似するやなんて。」
「でも、セエヘンかったんやろ?」「うん。でも、乗り込む直前に、先生の顔見たさかい。」
「心情的にはな。私も、何人もの犠牲者出した、あのアニメ会社の事件は、許されん。でも、心情だけで動くと、世の中は犯罪だらけや。チエちゃんは、警察官やから、『懲らしめる』権利は持ってる。でも、暴走したらアカン。警察官になった時、お父さんにも相談を受けた。子供の頃、正当防衛とは言え、いじめっ子を10人も病院送りにした子やから心配やって。『警察官が国家権力使った』って、マスコミに言われたら警察全体の責任になる。あの子の正義感は頼もしいだけに、ブレーキかけられるかどうか、って。」
「何て答えたん?先生。」「ブレーキは仰山ある。いつまでも子供扱いするのも考えモンやナア、って。今も、お父さんとお風呂入ってるの?」「うん。」
「まあ、親子で『事件』は起きへんやろうけどな。ブレーキは、いくつも持ってるやろ?茂原刑事も船越副署長も、小雪ちゃんも、それから、純一郎君もな。純一郎君は、昇進試験、ずっと見送ってる。チエちゃんが、『成長』するまで受けたくないって言って。大前田さんも困ってた。チエちゃんは、大前田家に嫁ぐのが嫌か?」
「ううん。兄ちゃんのお嫁さんになるって、小学校の時、決めた。葵祭の斎王になった時、すごく喜んでくれた。ウチが成長するって言うのは、ちゃんとお風呂入らんようにするっていうこと?」
「いや、違う。精神的なモンや。そうやな。今、チエちゃんが、心の中に持ってるブレーキが、大きくなることやな。あ。『ブレーキの一つ』が迎えに来たで。」
礼拝堂に、白鳥が入って来た。
「警視。あの摸倣犯は、友人に唆されて犯行に及んだ、って自白しました。アニメ会社事件程じゃないけど、火事になったら、死傷者が出ただろうって、鑑識が言っていました。それから、私は警部補になりました。そして、東山署に配属になりました。」
「兄ちゃん!!」
チエは、白鳥に抱きついた。「チエちゃん!まだ成長しないな。ここは、どーこだ?」
チエは駆け出した。白鳥は、追いかけた。
「やれやれ。ここ、教会なんやけどな。」そう言いながら、金城神父は、スマホを取り出した。
―完―