========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
子鹿・・・小雪の仲間の芸者。
島代子(たいこ)・・・芸者ネットワーク社長。
中町圭祐・・・下鴨署からの転勤。巡査部長。
大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。
熱田順子・・・劇団の劇団員。小雪の中学の時の同級生。
楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。
金城神父・・・チエが日曜学校に通っていた頃の神父。
遊佐圭祐・・・チエの幼なじみ。大学同級生。CATV『きょうとのテレビ』の広報課課長。
藤原真吉・・・チエの幼なじみ。チエは弟分のように思っている。
灘康夫・・・京都府知事。元作家。「康夫ちゃん」のニックネームがある。
金平桂子・・・京都市市長。
=====================================
※北野天満宮は、天暦元年(947)に創建された、全国に約1万2000社ある天神社・天満宮の総本社。平安時代に学者・政治家として活躍した菅原道真公を御祭神とし、現在は学問の神様としての信仰が厚いため、多くの受験生らが参拝に訪れる。国宝である御本殿は豊臣秀頼公が造営したもので、八棟造と称される絢爛豪華(けんらんごうか)な桃山建築。毎月25日の縁日では宝物殿の特別公開が行われ、境内には多くの露店が立ち並んでにぎわいを見せる。また、梅と紅葉の名所としても名高い。
※西陣(にしじん)とは京都府京都市上京区から北区にわたる地域の名称。「西陣」という行政区域はない。高級絹織物の西陣織発祥の地であり、織物産業が集中する地域である。
午前9時。東山署。会議室。
芸者ネットワークのホットラインが鳴った。
民間会社とのホットラインは、本来ならあり得ないことなので、府警の大前田と東山署の捜査員以外は知らないルートの『タレコミ情報』だ。
今日は、チエが出た。
「え?休み・・・そうですか。お大事に。」
電話を切ったチエに、神代は尋ねた。「どうした、チエ。」
「ちゃん。芸者ネットワーク、明日明後日休むって。スポンサーの旦那の1人が亡くなったらしい。明日明後日がお通夜告別式。殺されたらしい。京丹後市。経ケ岬灯台で。泣いてた。」
「そら泣くやろ。エライ遠いな。京丹後市やったら、ウチは干渉出来へんな。あちらから協力要請でんことには。」
「署長。天橋立よりまだ向こう。車で1時間ありますな。ここからやと・・・。」
「茂原。まだ協力体制ちゃうやろ。」茂原の言葉を遮り神代は言った。
「チエも辛抱しいや。心配やろうけど。」「うん。」
「取り敢えず、大前田に進捗聞いとくわ。」
署長の神代と府警本部長の大前田は昔からの友人で、チエは、息子の許嫁で、親同士の婚約を嫌がらず交際をし、愛し合っている。
午前10時。チエの執務室。
チエは所謂キャリア組である。普段、あまりいないが、チエ専用の個室だ。
小雪から、チエのスマホに電話がかかって来た。
「子鹿ちゃんからの情報。代子さんのスポンサーの迫水徳之助さん、『西陣織の系譜』の社長さんが殺された件やけど、ウチ、うっかり小耳に挟んだの。お座敷に来てたお客さんのお連れさんが、藤下いう、社長さんとこの専務で、横領がばれたから北野天満宮に呼び出さして、殺さしたこと自慢してはったの。無関係のことやったら、代子ねえさんとこに情報流すけど、ねえさん当事者みたいなもんやから・・・小雪ちゃんに相談したら、取り敢えずチエちゃんに報告したら、言うから。」
「社長さんのお通夜、どこのお寺さん?上京区?」
「ううん。北区。北山大橋の近く。」
「子鹿ちゃん、誰にもこのこと言わんとき。命危ないから。」
「やあ、いややわあ。ほな、チエちゃん、頼むな。
チエは、方々に電話を掛けまくった、部屋の電話で。
翌日。午後6時。北区。北山大橋近くの『永劫寺』。
記帳受付。小雪が弔問客の内、2人を呼び止め、「喪主の縁者が特別にお話をしたいと申しております。」と言って、別館のような裏手に案内した。
その2人は、当て身を食らい、気を失った。
北山大橋。
2人が目を覚ますと、故人の会社の専務である藤下と一緒にロープで括られていた。
辺りには、誰もいない。
実は、この時、橋の両側は『工事中』の看板とコーンが立っていた。
3人に向かって話かけてきたのは、狐の面を被った、妙な出で立ちの男だった。
藤井は、思い出した。首から下は、時代劇で見た『牛若丸』の格好だった。
「私は『鞍馬の牛若丸』と呼ばれている。天満宮に呼び出し、海の近くで『旦那』を殺し、海に沈めたのは、お前らだな。」
3人は、一様に首を振った。
『鞍馬の牛若丸』は、根気よく自白を迫った。
1時間半が経った。葬儀に間に合わないと叫んでいた藤井が、とうとう根を上げた。
藤井は、腎臓の持病があり、尿意が満ちてくると落ち着かなくなる。
とうとう、チビリながら、他の2人に殺しを依頼したことを自白した。
「はい、カット!!」という声が聞こえた。
すると、黒衣衣装を着た黒子がやって来て、また3人に当て身を食らわせた。
「シンちゃん、芝居上手いじゃない。」「少しの間だけど、役者だったからね。」
遊佐と真吉の声が聞こえたかどうかは分からないが、藤井は失禁していた。
午後9時。京都府警の前。
ライトバンがいつの間にか止まっていて、車体には『西陣織の系譜』という文字が入っていた。
大前田警視正が、灘府知事と金平市長と連れだって出て行くところだった。
「こんなところにライトバンが。駐車違反じゃないのかな?」と灘が車内を見ると、男3人が後部に転がっている。
一緒に来た白鳥が、「あ。何かフリップ・・・スケッチブックかな。書いてあるのは、『この3人が、西陣織の系譜社長殺害の犯人です。鞍馬の牛若丸。』ですね。」と、読んだ。
「まるで、ドラマね。」金平市長が言った。
「新年会はお預けですな。純一郎、中に運ばせろ。取り敢えず、『事情聴取』だ。」と、大前田は言った。
午後9時。神代家。
大前田家から届いた雑煮を平らげ、ご満悦の神代は「何か変やな。『鞍馬の牛若丸』って、今度ケーブルテレビで始まるドラマのタイトルと違ったか?」
「パクリやな。お風呂から上がったら、あずきバー食べような。」
神代は、全てを知っていた。
大前田が、怪しんで、部下が取り調べ中、真相を聞き出し、神代に連絡したからだ。
今回の『旦那殺人事件』の解決編は、チエが仕組んだことで、チエの『ネットワーク』がフルに活躍したのだ。
京都に戻っていた熱田順子の劇団、ケーブルテレビの遊佐、今はコンビニ経営者で芝居経験のある真吉が全ての『お膳立て』と『片づけ』を行ったのは、賢明な読者の推察通りである。
入浴前、チエのスマホにメールが届いた。島からだった。
「チエちゃん、ありがとう。」そんなタイトルだった。
―完―
============== 主な登場人物 ================
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。
船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
子鹿・・・小雪の仲間の芸者。
島代子(たいこ)・・・芸者ネットワーク社長。
中町圭祐・・・下鴨署からの転勤。巡査部長。
大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。
熱田順子・・・劇団の劇団員。小雪の中学の時の同級生。
楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。
金城神父・・・チエが日曜学校に通っていた頃の神父。
遊佐圭祐・・・チエの幼なじみ。大学同級生。CATV『きょうとのテレビ』の広報課課長。
藤原真吉・・・チエの幼なじみ。チエは弟分のように思っている。
灘康夫・・・京都府知事。元作家。「康夫ちゃん」のニックネームがある。
金平桂子・・・京都市市長。
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※北野天満宮は、天暦元年(947)に創建された、全国に約1万2000社ある天神社・天満宮の総本社。平安時代に学者・政治家として活躍した菅原道真公を御祭神とし、現在は学問の神様としての信仰が厚いため、多くの受験生らが参拝に訪れる。国宝である御本殿は豊臣秀頼公が造営したもので、八棟造と称される絢爛豪華(けんらんごうか)な桃山建築。毎月25日の縁日では宝物殿の特別公開が行われ、境内には多くの露店が立ち並んでにぎわいを見せる。また、梅と紅葉の名所としても名高い。
※西陣(にしじん)とは京都府京都市上京区から北区にわたる地域の名称。「西陣」という行政区域はない。高級絹織物の西陣織発祥の地であり、織物産業が集中する地域である。
午前9時。東山署。会議室。
芸者ネットワークのホットラインが鳴った。
民間会社とのホットラインは、本来ならあり得ないことなので、府警の大前田と東山署の捜査員以外は知らないルートの『タレコミ情報』だ。
今日は、チエが出た。
「え?休み・・・そうですか。お大事に。」
電話を切ったチエに、神代は尋ねた。「どうした、チエ。」
「ちゃん。芸者ネットワーク、明日明後日休むって。スポンサーの旦那の1人が亡くなったらしい。明日明後日がお通夜告別式。殺されたらしい。京丹後市。経ケ岬灯台で。泣いてた。」
「そら泣くやろ。エライ遠いな。京丹後市やったら、ウチは干渉出来へんな。あちらから協力要請でんことには。」
「署長。天橋立よりまだ向こう。車で1時間ありますな。ここからやと・・・。」
「茂原。まだ協力体制ちゃうやろ。」茂原の言葉を遮り神代は言った。
「チエも辛抱しいや。心配やろうけど。」「うん。」
「取り敢えず、大前田に進捗聞いとくわ。」
署長の神代と府警本部長の大前田は昔からの友人で、チエは、息子の許嫁で、親同士の婚約を嫌がらず交際をし、愛し合っている。
午前10時。チエの執務室。
チエは所謂キャリア組である。普段、あまりいないが、チエ専用の個室だ。
小雪から、チエのスマホに電話がかかって来た。
「子鹿ちゃんからの情報。代子さんのスポンサーの迫水徳之助さん、『西陣織の系譜』の社長さんが殺された件やけど、ウチ、うっかり小耳に挟んだの。お座敷に来てたお客さんのお連れさんが、藤下いう、社長さんとこの専務で、横領がばれたから北野天満宮に呼び出さして、殺さしたこと自慢してはったの。無関係のことやったら、代子ねえさんとこに情報流すけど、ねえさん当事者みたいなもんやから・・・小雪ちゃんに相談したら、取り敢えずチエちゃんに報告したら、言うから。」
「社長さんのお通夜、どこのお寺さん?上京区?」
「ううん。北区。北山大橋の近く。」
「子鹿ちゃん、誰にもこのこと言わんとき。命危ないから。」
「やあ、いややわあ。ほな、チエちゃん、頼むな。
チエは、方々に電話を掛けまくった、部屋の電話で。
翌日。午後6時。北区。北山大橋近くの『永劫寺』。
記帳受付。小雪が弔問客の内、2人を呼び止め、「喪主の縁者が特別にお話をしたいと申しております。」と言って、別館のような裏手に案内した。
その2人は、当て身を食らい、気を失った。
北山大橋。
2人が目を覚ますと、故人の会社の専務である藤下と一緒にロープで括られていた。
辺りには、誰もいない。
実は、この時、橋の両側は『工事中』の看板とコーンが立っていた。
3人に向かって話かけてきたのは、狐の面を被った、妙な出で立ちの男だった。
藤井は、思い出した。首から下は、時代劇で見た『牛若丸』の格好だった。
「私は『鞍馬の牛若丸』と呼ばれている。天満宮に呼び出し、海の近くで『旦那』を殺し、海に沈めたのは、お前らだな。」
3人は、一様に首を振った。
『鞍馬の牛若丸』は、根気よく自白を迫った。
1時間半が経った。葬儀に間に合わないと叫んでいた藤井が、とうとう根を上げた。
藤井は、腎臓の持病があり、尿意が満ちてくると落ち着かなくなる。
とうとう、チビリながら、他の2人に殺しを依頼したことを自白した。
「はい、カット!!」という声が聞こえた。
すると、黒衣衣装を着た黒子がやって来て、また3人に当て身を食らわせた。
「シンちゃん、芝居上手いじゃない。」「少しの間だけど、役者だったからね。」
遊佐と真吉の声が聞こえたかどうかは分からないが、藤井は失禁していた。
午後9時。京都府警の前。
ライトバンがいつの間にか止まっていて、車体には『西陣織の系譜』という文字が入っていた。
大前田警視正が、灘府知事と金平市長と連れだって出て行くところだった。
「こんなところにライトバンが。駐車違反じゃないのかな?」と灘が車内を見ると、男3人が後部に転がっている。
一緒に来た白鳥が、「あ。何かフリップ・・・スケッチブックかな。書いてあるのは、『この3人が、西陣織の系譜社長殺害の犯人です。鞍馬の牛若丸。』ですね。」と、読んだ。
「まるで、ドラマね。」金平市長が言った。
「新年会はお預けですな。純一郎、中に運ばせろ。取り敢えず、『事情聴取』だ。」と、大前田は言った。
午後9時。神代家。
大前田家から届いた雑煮を平らげ、ご満悦の神代は「何か変やな。『鞍馬の牛若丸』って、今度ケーブルテレビで始まるドラマのタイトルと違ったか?」
「パクリやな。お風呂から上がったら、あずきバー食べような。」
神代は、全てを知っていた。
大前田が、怪しんで、部下が取り調べ中、真相を聞き出し、神代に連絡したからだ。
今回の『旦那殺人事件』の解決編は、チエが仕組んだことで、チエの『ネットワーク』がフルに活躍したのだ。
京都に戻っていた熱田順子の劇団、ケーブルテレビの遊佐、今はコンビニ経営者で芝居経験のある真吉が全ての『お膳立て』と『片づけ』を行ったのは、賢明な読者の推察通りである。
入浴前、チエのスマホにメールが届いた。島からだった。
「チエちゃん、ありがとう。」そんなタイトルだった。
―完―


