さようならを言わなくちゃ

 お昼休み。中学の頃と違って、高校では給食が出ない。班で一緒に食べるというような、半強制的な他者との関わりの機会はなくなり、どこで誰と食べるか、自分で決める必要がある。
 私には、誰かを誘うという勇気なんてない。
 今日も自分の席で一人お弁当を食べようとすると突然、右隣と目の前の二つの机が、私の机にくっついた。
 何が起きたのか、一瞬理解が追いつかなかった。
「一緒に食べようよ!」
机を合わせてきたのは、めぐみさんと、怜奈さんだった。
「う、うん」
 戸惑いながら答える。どうして、私と?
 そんな私に構わず、二人はお弁当を開ける。
「いただきまーす」
「いただきます……」
 上手く手が動かない。家族以外の誰かとご飯を共にするのなんてほぼ一年ぶりだろう。
「あのさ、さっきの問題なんで解けなかったの?」
 めぐみさんの口からは、予想外の言葉が飛び出た。
 やっぱり、バカにしに来たのか。
「だって、花梨ちゃんってめっちゃ頭いいじゃん。ちょっと見えちゃったけど、この前のテスト90点だったでしょ? 私なんて40点なのに」
 な、なんだ……質問の意図が読めない。嫌味を言いにきたのか? でも、それにしては純粋な眼差しに見えた。
 正直に言っても、いいのかな……
「めぐみやめなよ、いつも完璧な人なんていないんだから。失礼だよ」
 口を開こうとすると、怜奈さんが遮る。
「えー、だって気になるし。うちでも解けたんだよ?」
 きっと、悪気なんてないのだろう。癪に障るかもしれないとか、傷つけちゃうかもしれないとかも思わないのだろう。
 多分、実際に傷ついた人もいただろう。でも、彼女の純粋な眼差しを見たら、きっと簡単に許してしまうのだろう。
 彼女のような性格が、とても羨ましい。
私とは正反対。だけど、案外怖い存在ではないみたい。
 私も、ちょっとだけ勇気を出してみようかな。
「大丈夫だよ、怜奈さん。私、みんなの前で間違えるのが怖くて。ほら、バカにされちゃうかもしれないじゃん。ほんとは合ってたけど、答えられなかったんだよね、あはは」
 慣れない笑顔を貼り付けてみる。二人は、怪訝そうな顔でこちらを見ている。
 なんだ……? やっぱり、こんな理由はおかしいか。それとも、笑顔が気持ち悪かった? ほんとは合ってた、とか言うべきじゃなかっただろうか。
 胸が苦しくなる。不安で頭がいっぱいになる。
「そんなんでバカにするわけないじゃん! 考えすぎだよ」
「そうそう。うちらそんなに怖い?」
 予想とは裏腹に、二人からは優しい言葉が返ってきた。
「考えすぎ……?」
「そうだよ! うちらは今日から友達! 細かいこと気にしないの。いいよね、怜奈」
「もちもち。呼び捨てでいいから!」
 なに、この展開……
 でも、不快感は全くなかった。私がこんな言葉を人に伝える立場になったら、きっと「不快じゃないだろうか」と気にすると思うが、彼女たちは全く気にしない。そして、不快にすることもない。
 心底羨ましいと私は思った。でも、ただ私が考えすぎているだけなのだとしたら……
 この、羨ましいという感情も、きっと彼女達には理解できないのだろう。