それから彼女とは休みごとにあの図書館地下で会うことになった。その度に魔力の流れを整えてあげているが、結果は気長に待たなければいけない。
 
 魔導の授業にはしばらく出なくても良いと言ってある。そもそも彼女は特別クラスの中にあってなお頭一つ飛びぬけているのだ。知識も、技術も。
 魔力量に対して練度が追いついてないだけで魔力操作能力はそこらの教師よりも熟達している。そうでなければ暴走していたからかもしれない。きっと、私と同じ不老の魔女である魔女王が教えたのだろう。
 対処療法さえされていなかったのは、知識が不足していたのか魔力操作技術が足りなかったのか。私と違って魔法に力を注いでいる魔女なのかもしれない。

 そんなこんなで一か月。子どもたちは相変わらず授業を聞いてくれない。寝ているか、他の授業の課題をしているか。妨害に関係のない質問をしてくるなんて事もしょっちゅうだ。
 出席はしているのは、貴族のメンツ的なものなのだろうか。

「はぁ、どうしたものかしら……」

 ぶっちゃけテキトウにしても報酬は貰えるのだけれど、仕事は仕事だ。私の信頼に関わる。
 個人的にはどうでもいいが、冒険者という職業的な立場で言えばよくない。実入りは買える本の量とお酒やチョコの味に直結する。非常に良くない。

 教師からの嫌がらせはどうとでもなるし、サクッと処理すれば読書タイムに影響しないからどうでもいいんだけれど……。

「もう僕が行って思いっきり威圧しようか?」
「下手したら死んじゃうからダメ」

 アストも中位精霊のアネムに匹敵するくらいの力を得ている。召喚に制限されない、本気のアネムにだ。契約によって私と魔力的、魂的に繋がっている事も理由の一つだろうけれど、何よりこの子の努力の成果だと思う。

「先生、どうなさったんですか?」
「ウル……」

 愛称で呼んでほしいと言われて以来、そう呼んでいる。王族の彼女相手に許されるのかという話は、恩人で先生だからセーフなんだそう。

 それよりも、生徒たちに関する悩みを同じ生徒の一人に相談していいモノか……。いや、だからこそ聞くのはありか。

「――とまあ、そんなわけで、どうやってあの子たちに真面目に授業を受けさせるか悩んでいたの」
「あぁ……。皆さん、貴族としての自尊心の高い方々ですから……」

 貴族としての自尊心。この国で言えば、貴族は平民よりも優れていて当然とか、そんなものね。

「先生が本物の魔女だとも思っていないでしょうね」
「だと思うわ」
「それに関しては仕方ないよ。ソフィア、表に出してる魔力量は他の先生たちより少ないし」

 こうでもしないと周りに被害を出してしまう事もあるから。以前少し垂れ流し気味になっていた時は、多少でも魔力を感知できる人たちが失禁したり失神したりと大変だった。
 制御している状態なら訓練にもなるし、見抜ける人はそんな失態しないだろうから、森を出て少ししたくらいからずっと今の状態で生活しているんだけれど、今回はそれが仇になったみたい。

「いっそ、力の差を示して差し上げるのが良いかと。文字通り、実力行使で」
「そう、ね……」

 やるしかない、のかしら?