85
「ふむふむふむ、身体強化でも魔力に込める情報の具体性が大きく影響すると。つまり身体強化はエネルギーの加算ではなく魔法的な現象の発現と考えた方が良い? いえ、両方の性質があるかもしれません。それに魂力。加えて術式。この術式はどうして? もしや、術式自体が魔法的現象の一つ? 例えば、魔法を発動するという意思の具現。それが補助機構として働いているとするとイメージの具体性で魔法の威力が変わる理由も――」

 ああ、うん。やっぱりこうなった。

 今私たちがいるのは、土御門邸の大部屋の一つ。
 畳が敷かれ、鴨居から何からが白木で作られた如何にも高級そうな部屋で、家庭料理と懐石料理の間みたいなお昼ご飯をいただいていた。

 その折に、話の流れで身体強化の効率化に関する話をちょろっとしたらこうだ。
 まあ、予想通り。

 むしろあれだけの情報で、これから伝えようと思っていた内容まで推測出来ている辺り流石だよ。
 令奈さんは令奈さんで、呆れたように見ているけれど、ウィンテさんの話す一言一句に集中しているのが分かる。
 貪欲だねぇ。
 良い事だ。

 彼女たちは一旦放っておいて、お料理を楽しもう。出汁を丁寧にとっていて私の好みにドンピシャなのだよ。
 一番最近の京懐石の記憶が、旧時代に食べた東京の味付けななんちゃって京懐石だったから嬉しい。美味しいは美味しいけど、違ったんだ。
 あれで一人一万だか二万だかだったからなぁ。連れて行ってもらっておいて何だけど、食文化の違いを感じたよ。

 しかし凄いね。この屋敷の中にどれだけの使用人がいるのか。
 お抱えの料理人に、障子の向こうに控えている人に、その他大勢。

 うちも古い家ではあったけども、使用人はいなかった。やっぱり格が違うね。

「――ハロさん、いいですよね!?」
「え、うん」

 え、何が?

「やったー!」
「あんた、聞いてへんかったやろ。知らんで」

 だから何が?
 なんかマズイ返事した?

 横で置物になってる夜墨へ視線を向けても、そっぽを向くばかりで教えてくれない。
 
「もう言質はとりました! あ、令奈も一緒だよ勿論」
「はぁ? ……まあ、ええけど」

 なんかどんどん話が進んでいく。
 私、まだ何するか分かってないんだけど?

「場所は、伊勢大迷宮でいいですかね?」
「私らが行くんならそこやろなぁ」

 ん、なぜに迷宮?
 って、まさか……。

「迷宮配信コラボ……?」
「そうです!」

 えぇ……。
 ずっと断ってたのに、しまったなぁ……。

 助けを求めるように夜墨を見るけど、分かりやすく目を逸らされた。
 方法がないのか、助ける気がないのか。

 なんとなく後者の気がするので、期待しないでおこう。

「そうと決まれば、善は急げです! ほら、二人とも、早く食べてください! 準備しますよ!」
「はぁ……。堪忍やけど、付き合うてもらうで」

 箸を進める手を早めた二人に、私も倣う。もっと味わって食べたかったんだけど、仕方ない。
 あぁ、美味しいごはん……。

「今日はどうせ泊まりや。晩御飯も食べさしたる」

 ふむ。
 よし、急ごう。

 偶にはいいよね、コラボ。
 変化、大事。

「……自分も現金やんなぁ」

 狐のジト目なんて見えません!
 美味しいは正義!

 お昼を急ぎ済ませた私たちは、戦闘用の服に着替えて三重に向かう。
 今夜墨の頭上にいるのは、いつもの黒い着物の私に、鮮やかな赤の舞衣(まいぎぬ)を巫女服の白衣(はくい)の上に纏った令奈さん、そして黒いカジュアルなゴシックドレスを着たウィンテさんの三人。ウィンテさんは何故かドレスの上から研究用の白衣を纏っていた。

 白衣が無いと落ち着かないらしい。まあ、似合ってるから良いか。
 あー、でも黒髪ロングの赤眼で黒ゴシックドレスでしょ? 白衣無しも見たいな。
 よし、あとで見せて貰おう。

 令奈さんもこれで完成形って感じ。金髪金目の狐に白と赤。超かわいい。
 なんだけど、なんか既視感。なんだろ。

「ねえ令奈さん、その舞衣って何?」
「火鼠の皮衣やって」

 ほーん、竹取物語のあれか。
 いや、でもあれって、汚れても火にくべたら雪のように白く成るだとか、瑠璃色だったとかって話があるよね? 赤いって話なんて聞いて覚えがないぞ?
 何故に赤?

 赤なんて、どこから……。
 あー、そういう。

 え、漫画なんかにも影響されるの?
 いや、各種族も割とそうか。

 私が知らないだけの可能性はあるけど、ん-、不思議だ。
 とりあえず夜墨初搭乗でテンション上がってた二人が可愛かったので良し。

 まあそれはそれとして。

「で、着いたらどうするの? いつもみたいに迷宮の前から配信開始?」
「うーん、それでも良いんですけど、旅配信が見たいってコメントあったじゃないですか」

 ああ、そういえば。
 厳島神社の迷宮を攻略した時の配信だね。

「ハロさんの配信コンセプト的にしなくて良いとは思うんですが、お茶を濁す程度に三重の町を歩いてから迷宮に入るのは有りかなって。私の視聴者層的にも」

 ふむ、なるほどね。
 ん-、まあ、正直どっちでも良い所はある。

 とは言えコラボだからね。

「じゃあそれで。令奈さんも良い?」
「かまへんよ。私の視聴者層は、陰陽師的な術が好きな連中やさかい、迷宮内のあれやこれやでいい」

 よし、決定。
 てか令奈さんも配信してたんだ。初知り。

 まあ、知名度高かったら実入り良いからね、配信。
 もうレッドオーシャンもいい所だから、人によってはもっと効率の良い稼ぎ方があるんだろうけど。

「おかげ横丁の辺りからスタートかなぁ?」
「そうですね。そこで良いと思います」
「という訳だから夜墨、あの辺に下りて」

 さて、初コラボ。
 打ち合わせはあまりしてないけど、どんな感じになるかな。