そんなこんなで一時間後。
 きりかぶと丸太に変化は、ありました!

 一瞬目を離して戻したら復活してたんだよ。
 もう驚き。

 丸太の方は一見変化なしだったけど、よくよく確認すると内包する魔力密度が明らかに小さくなっていたんだ。
 このままいけば、遠からず分解される。

 つまり、ですね。

「目じるしにはならない、当ての無い遭難続行、と……」

『まあ、どんまい』
『頑張って』
『いつかは進めるさ』
『ふぁいとです!』

 はい、頑張ります。
 気合でなんとかなるさ、うん。

 余談だけど、定期的に迷宮以外の魔力が接触すれば分解されないのが分かっている。
 だから拠点を作る分には問題ない。

 今回みたいに離れた場所の目印ってなるとダメだけども。

 あ、ジャムの方はちゃんと美味しかった。

 温かいのはしっとりしてて、そのまま食べてもいける。
 冷たいのはそのままじゃ甘すぎるけど、パンに付けたりヨーグルトにかけたりする分にはちょうど良いって感じ。

 帰ったらこれでパイを作るのもいいかもしれない。
 今は懐の中です。

「まあ、ダメなものは仕方がない。気を取り直して進むよ」

 前みたいに空間を満たす力の密度で推測出来たら良かったんだけどなぁ。
 ここは誤差なのか次の階層に近いからなのかも分からない。

 それだけ迷宮が深いと考えたら、後々の守護者には期待できるんだけど。

 なんて悲観している時期が私にもありました!

「階段、あったね?」

『あったな』
『ありましたね』
『思いのほかアッサリ』
『お昼休憩の地点から徒歩五分。駅ちかのお勧め物件かな』
『なんか良いな、こういう階段』

 出発から五分ほどで見つけた二階層への階段は、見上げるほどに大きな古木の洞にあった。
 苔むした大樹の中に、上へと続く階段。

 確かに良い雰囲気。
 
 大人が五、六人、余裕をもって並べるくらいの幹の内側が全部空洞だから、この木だけは迷宮の構造の一部になってるんだろうね。

「まあ、行こうか」

 木の内側をなぞる用に続く木製の螺旋階段は、案外で歩きやすい。
 これ、パッと見だけど、外見の樹高よりも高くまで続いてるんじゃないかな。

 時間がかかりそう。
 例によって階段部分は不思議な明るさが保たれているから、視界には問題がない。
 そういう意味では、多くの人たちにとっては幸いかな。

 けど階段が急。
 そして螺旋の半径が短い。

 急いで登ると目が回りそう。
 ゆっくり行こう。

「二階層は森じゃないと良いなぁ」

『ですねぇ』
『まあ、森じゃないかな』
『うちの近くにある森型は、二階層も森だったな』
『階層ごとに変わる事もあるのかな?』

 階層ごとに変わる場合があるかないかって言われたら、ある。
 我が家がそうだし。

 洞窟、山、と来ての城。
 山部分は大きな川を辿っていくだけで奥に進めるから、私でも迷わないよ。

 まあそんな事はまだ言えないので。

「階層ごとに変わる事もあって欲しいね。切実に」

 また森だったら、私泣くよ?
 渋谷の迷宮ならもう、五、六階層は進んでる時間が過ぎてるし。
 だいたい三、四時間。

 あ、外の光だ。
 長かったなー。
 
 さて、二階層はどんな階層かな?

「うん、泣いた」

『うわぁ、どんまい?』
『ばっちし深い森』
『森だなぁ』
『森だ』
『遭難パート、なんばーつー』
『頑張れ』

 はい、頑張ります。
 今度はそんなに迷わないと良いんだけど……。

 ――なんて数時間前の願望は当然の如く叶わない。
 うん、また迷ったが?

「普段ならもう配信終わってる時間なのに……」

『たしかに』
『もうすぐ夕方ですね』
『これ、空があるから日も暮れるのかな?』
『夜の森か……。うん、ハロさんなら問題ないな』

 ふむ、日暮れか。
 どうなんだろう?

 我が家の山エリアに夜行ったことが無いからなぁ。

 いや、そんな事よりも次の階段を……。

「あった!」

『びっくりした』
『階段か。何かと思った』
『超嬉しそう』
『ちらっと見えた目が超輝いてた』

 そりゃあ嬉しくもなるよ。
 魔物も出ないまま数時間だもの。

 というわけで、三階層です。

 また森です。
 本当に泣いていいかな?

 あ、でも。

「魔物の気配がする」

『お、ようやくか』
『つまりここからは戦闘もあり、と』
『ここまで長かったな。お疲れ様』
『ハロさんの声がちょっと嬉しそう』

 一人で歩いてる分には良いけど、ただ森を歩いてるだけで数時間喋ってた訳だからね。
 いい加減、何話していいか分からなくなってたし、話題提供がありがたい。

 よし、この気配を追おう。
 どうせ道なんてわからない。

 食べられるやつだと良いなぁ。