眼下には血と生ごみの臭い漂う渋谷。
 天気は良好、地上に風は無し。
 絶好の配信日和だね!

 迷宮潜るから天気は関係ないんだけど。

「それじゃ、行ってくる」
「ああ」

 夜墨の頭の上から倒れこむようにして、ダイブする。
 そうだ、適当な所で減速しないと。
 またクレーターが出来ちゃう。

 それにしても、なんかいつもより血の臭いが濃い気がする。
 気持ち悪い。

 人の気配も気持ち少ないし、誰か暴れたかな?

 まあいいや。
 配信開始したら、さっさと迷宮に入っちゃおう。

 そろそろ地上だね。
 その辺を流れる力の流れに乗って減速、からの着地。

 うん、百点。

 うん? なんか近づいてくる気配が。
 人間、かな。

 ダラダラしてて話しかけられたら面倒だし、早速配信開始っと。

「ハロハロ、八雲ハロだよ。皆おはよう」

『ハロハロー』
『おはようございます』
『おはー。今日は十一階から先か』

 ウィンテさんが告知してただけあって、昨日より集まるのが早いね。
 今日も稼がせてもらえそう。

「それじゃ、早速迷宮入るねー」

 いざ出発って、うん?
 さっきの気配、めっちゃ走ってきてない?

 意外と早いぞ?
 あ、あれか。

「待て!」

 うわー、なんかめっちゃ叫んでる。
 どうしようかな。

 敵意バリバリなんだよね。
 いっか、待たなくて。

『待たないハロさん。流石です』
『完全スルーの体勢草』
『待たないんですか?』
『やばそうなヤツ来たな』

「待てって言ってんだろブス!」

 お、この話し方。
 もしかしてもしかする?

 いやいや、同じようにボキャブラリーに乏しい罵倒なんていくらでもあるしね。
 でもやっぱりちょっと気になるので待ちましょう。

「君、絶影君?」
「はぁ、はぁ……よく、分かっ、たな」

 追い付いてきたから聞いてみたけど、めっちゃ息切らしてる。
 そしてやはり絶影君だった。

 高校生になってるか怪しいくらいだね。
 超幼く見える。

 けど服には返り血がたっぷりでギャップ凄いね。

『お、噂の絶影君。超ガキじゃん』
『なんでこんな血が付いてるんだ?』
『子どもがそんなニヤニヤ笑いするものじゃ無いと思います』

 いつかのヤーさん並みの下卑た笑み。
 なんだろうね?

 とりあえず息整えるの待ち。

「この俺がわざわざ証明しに来てやったんだ! 喜びやがれ!」
「はぁ? それはどうも?」

 何をだろ。
 よく分からないけど、絶影君って分かったからもういいや。

『流れるように迷宮内に向くカメラ』
『文字通り眼中になし!』

 いやだって、興味ないし。

 あ、証明ってあれか。
 昨日ウィンテさんの配信で自分の方が強くなれるとか云々言ってたやつ。

 たしかに、その辺の人よりは多少強そうだけどさ、十階層の守護者、ワーラットよりちょっと弱いくらいなんだよね。

「待てっつってんだろ!」

 ん?
 熱の気配。

 あたっ。

「ハハハ! どうだ俺の魔法は!」

 どうって、小さな子どもの投げた柔らかいボールに当たったような感じ?

 強いて言えば、感じる彼の魔力量にしては強かったかな。

「ああ、魔石使ったんだ。それ、自分で取ってきたの?」
「兄貴に教えて貰ったんだ! すげぇだろ!」

 うん?
 ああ、すぐブロックしたから私の配信見てないんだ。

『魔石使って魔法を使ったのか』
『魔石使った魔法、ちょっと前にハロさんが教えてたやつだよな』
『火の玉ぶつかって焦げ目一つ付かないハロちゃんの髪よ』
 
 そのアニキさんはウィンテさんの契約の時に見てたんだろうね。

 一応、頭の片隅に置いておこうかな。
 なーんか、引っ掛かるんだよね、絶影君のアニキさん。

「アニキって、実のお兄さん?」
「そうだ!」

 あら素直。

 よし、聞きたい事は聞けたから行こうかな。

「あっこら、待ちやがれ!」

 まだ何かあるんだろうか?
 と思って振り返ったら、霧散する小さな魔石の数々と、同じ数の火球が見えた。

 どうしよ、無視してもダメージ無いんだけど、調子に乗るかな?
 さすがに鬱陶しい。

 よし、かき消そう。

「はぁっ!?」

『デコピンの風圧でかき消した?』
『なんかよく分からんがすげぇ』
『ハロちゃん最強』

 飛行するときに使う技術の応用。
 そこらにある力に直接干渉して風圧みたいにしただけ。

 魔力だったり、何かよく分からない、けどもっと根源的な力だったりって意外とそのへんに漂ってるんだよね。
 薄らとだけど。

 ちなみに迷宮内はもっと濃い。

「チートだろ!」
「まあ、否定はしないかな」

 これで空も飛べるし。

 ズルではないけどズルくはある、みたいな。

「じゃ、ばいばい」

 さっきので尻もちを突いてる絶影君を放置して迷宮内へ。
 転移したら追って来られないでしょ。

「変なアクシデントごめんねー?」

『気にしてナッシング』
『大丈夫ですよ』
『悪い意味で期待通りだったな 絶影君』

 なんか追いかけてくる気配があるけど、気にせず隠し部屋へ。

 あ、通り過ぎて行った。
 まあ、魔石はまだ持ってるみたいだし、死にはしないか。

「なんか十階層の守護者前か守護者後か選べるみたいだね。準備運動も兼ねて守護者前に行こうと思うけど、それでいい?」

『おっけー』
『はい』
『ボスって同じなのかな?』
『今回はサクッと倒すのかな?」

 そうだった。
 皆は守護者一緒ってまだ知らないんだった。

 じゃあちょうどいいか。

「じゃあ行くねー」

 魔法陣に乗ると、眼前に選択肢が現れる。
 予定通り十階層(守護者前)と表記されているものを選ぶと、ほんの一瞬視界が暗転して、重厚な扉の前に移動した。

 これ、本当に便利。
 外でも使えたらいいんだけど、見える範囲への転移ですら私のほぼ全魔力が必要だったんだよね。

 軽い物ならまだなんとか実用範囲だけど、まあお蔵入りかな。

 ちなみにイメージは座標平面を折り曲げて点と点を重ねる感じにした。

「今回も一応しておこうかな?」

『ん? 今回もって、前回何かしたっけ』
『あれか?』
『あれするのかな?』

 そう、あれです。

「しゅーごしゃさーん! あっそびーましょー!」

 はい、扉オープン。
 ちゃんといますね、ワーラットさん。

『こんにちはー、遊びに来ましたーてか』
『相変らずユルい』
『守護者、今回もワーラットなんだな』

 だって、アイツ弱いし。

「感じる強さは前回きたときと同じかな。サクっとやっちゃうねー」

 武器は無しでいいかな。

 あ、咆哮上げようとしてる。
 あれ煩いんだよね。止めよっと。

「ほっ」
「ジュルァ!?」

 アッパーカット!
 お口は閉じてなさいっと。

 浮いたところに回し蹴り。
 軽く蹴ったから、山なりに飛んでいく。

 三メートル半の巨体が飛んでいくのは凄い光景ではあるよね。
 まあ、配信映え?
 違うか。

 そのまま距離が離れる前に尻尾を巻きつけてキャッチ。
 私の身長近い長さの尻尾だから、こんな風に振り回して地面に叩きつける事だってできます、はい。

 ん、まだ息はあるね?
 じゃあ止めは、魔法かな。

 雷ちゅどーん!

「よし、終わり」

『えげつな』
『圧倒的じゃないか、我が主は』
『絶影君の魔法が可愛く見える』
『炭化してるな、ワーラット』

 これでも夜墨に向けられた雷の数分の一とかって威力なんだよねー。
 今のくらいなら、体力Aの私でも殆どノーダメージじゃないかな?
 夜墨の鱗なら無傷だろうね。

 うん、龍ってやっぱり頑丈過ぎない?
 やっぱ私らチートだわ。

 今度絶影君にチートだろって言われたら断言しよっと。
 また会うか知らないけどさ。