同世代より大人っぽくて容姿も整っていたためそのよく目立つ見た目から、本人は不本意だったかもしれないけど、基樹はよく遊んでいると勝手な判断で言われていたし、わたしもそう思っていた。
それでもサッカーのことに対してはいつも真剣で無邪気な子どものように目を輝かせるそんな基樹が好きだったのだ。
なぜ、こんなすっかり忘れていた気持ちを今頃思い出さないといけないのだろうか。
こうして過去に戻ることによって、以前の気持ちを思い出させるという試練だとでもいうのか。懐かしさを思い出したところで異変があるわけでもないから、これは元の世界へ戻るためのきっかけではなさそうだけど。
「……思い出したところでどうなんのよ」
わたしは振られた側の人間だ。
振った側ではない。
それなのに拒絶された相手との思い出に浸らされるなんて、あまりにも酷すぎる。
むしろわたしじゃなくてむこうがわたしとの過去に浸って当時の心境を取り戻した方がいいのではないか。
そうよ。基樹が勝手に好きな相手を見つけてしまったのだ。
彼の気持ちが変わらないことにはわたしがどう頑張ったってどうしようもない。
「仕方ないよ、本当に好きな相手を見つけたんだから……」
無意識にもぽつりと言葉にしたら、だんだんむなしくなってくる。
(なにさ、好きな人がいるって。それじゃまるでわたしのことは好きじゃなかったみたいじゃない)
よくよく考えてみると、わたしは彼に好きだと言われて付き合ったわけでもない。
どうだったか……うん。夏が過ぎたころ、誰もいなくなった教室でばったり彼に会ってしまったことがすべてのきっかけだった。
当時は何かあるとすぐに逃げたくなるダメダメ人間だったわたしは、遠くから彼を見てるのが精一杯だったため、そんな相手が目の前にあわられたことによりパニック状態に陥って腰を抜かしてしまったのだ。
おい、大丈夫か?って走ってきてくれた基樹に何も答えることができなくて、わたしは呼吸をすることを忘れた。
なにかいろいろ言われた気がするけど気が動転してしまったわたしは彼を見て時を止めてしまっていた。そんなわたしに、
『もしかして、俺のこと好きなの?』
なぁーんて、今ではどこまでナルシストなんだって叫んでやりたくなるくらいのセリフを基樹からかけられ、ますます絶句してしまったわたしに、じゃあ付き合うか?って彼はさらっと言ったのだ。
本当にただただ自然に世間話をする感じで。
わたしもわたしでその時だけ震えていうことを聞かなくなった頭をフル回転させ、聞こえるか聞こえないかわからない声で『はい』と答えた……だったか。
そんなわけのわからない成り行きでいつの間にやら長年の苦しかった片思いが実ったのだった。
少々美化されかかってるかもしれないけど、我ながらかわいい過去もあったものだ。
それからはまぁいろいろ大変だったけど、なんとか基樹の彼女になることができて、なかなかうまくいかなかったけど、今では努力に努力を重ねて、ようやく基樹の完璧な彼女という位置まで上り詰めたところだった。
成績だって学年でも上位はキープしているし、見た目だって気を使っていた。
あの赤石基樹の恋人だって胸を張って言えるようにいつも意識して生活してきた。
現にミス修徳の座だって勝ち取ることに成功したし『文句のない彼女』のはずだった。
それなのに、その矢先に別れ話……だなんて、あまりの空回りっぷりに自分でも笑えてくる。
「きゃー! 見た? 見た? 今の?」
「見た見た! かっこよすぎ!」
あたりも徐々に薄暗くなってきたというのに、何が楽しいのか、ずっと変わらぬ体勢でサッカー部の練習を眺めてくすくす笑う女の子たち。
未だジメッとした空気さえもつきまとってくる。
そんな中でそうまでして基樹が見たいのかとぼんやり思う。
(いや、そうだよね)
当時のわたしだって負けてなさそうだろうなと思ったら、なんだかおかしくなった。
「あの……」
「ん?」
後ろから声がして初めて自分が誰かから呼ばれていることに気付いた。
「た、高崎さん……と、お、小栗さん……」
驚いた。
振り返った先に、当時のクラスメイトたちが複雑そうな表情でこちらを見ていたのだった。
それでもサッカーのことに対してはいつも真剣で無邪気な子どものように目を輝かせるそんな基樹が好きだったのだ。
なぜ、こんなすっかり忘れていた気持ちを今頃思い出さないといけないのだろうか。
こうして過去に戻ることによって、以前の気持ちを思い出させるという試練だとでもいうのか。懐かしさを思い出したところで異変があるわけでもないから、これは元の世界へ戻るためのきっかけではなさそうだけど。
「……思い出したところでどうなんのよ」
わたしは振られた側の人間だ。
振った側ではない。
それなのに拒絶された相手との思い出に浸らされるなんて、あまりにも酷すぎる。
むしろわたしじゃなくてむこうがわたしとの過去に浸って当時の心境を取り戻した方がいいのではないか。
そうよ。基樹が勝手に好きな相手を見つけてしまったのだ。
彼の気持ちが変わらないことにはわたしがどう頑張ったってどうしようもない。
「仕方ないよ、本当に好きな相手を見つけたんだから……」
無意識にもぽつりと言葉にしたら、だんだんむなしくなってくる。
(なにさ、好きな人がいるって。それじゃまるでわたしのことは好きじゃなかったみたいじゃない)
よくよく考えてみると、わたしは彼に好きだと言われて付き合ったわけでもない。
どうだったか……うん。夏が過ぎたころ、誰もいなくなった教室でばったり彼に会ってしまったことがすべてのきっかけだった。
当時は何かあるとすぐに逃げたくなるダメダメ人間だったわたしは、遠くから彼を見てるのが精一杯だったため、そんな相手が目の前にあわられたことによりパニック状態に陥って腰を抜かしてしまったのだ。
おい、大丈夫か?って走ってきてくれた基樹に何も答えることができなくて、わたしは呼吸をすることを忘れた。
なにかいろいろ言われた気がするけど気が動転してしまったわたしは彼を見て時を止めてしまっていた。そんなわたしに、
『もしかして、俺のこと好きなの?』
なぁーんて、今ではどこまでナルシストなんだって叫んでやりたくなるくらいのセリフを基樹からかけられ、ますます絶句してしまったわたしに、じゃあ付き合うか?って彼はさらっと言ったのだ。
本当にただただ自然に世間話をする感じで。
わたしもわたしでその時だけ震えていうことを聞かなくなった頭をフル回転させ、聞こえるか聞こえないかわからない声で『はい』と答えた……だったか。
そんなわけのわからない成り行きでいつの間にやら長年の苦しかった片思いが実ったのだった。
少々美化されかかってるかもしれないけど、我ながらかわいい過去もあったものだ。
それからはまぁいろいろ大変だったけど、なんとか基樹の彼女になることができて、なかなかうまくいかなかったけど、今では努力に努力を重ねて、ようやく基樹の完璧な彼女という位置まで上り詰めたところだった。
成績だって学年でも上位はキープしているし、見た目だって気を使っていた。
あの赤石基樹の恋人だって胸を張って言えるようにいつも意識して生活してきた。
現にミス修徳の座だって勝ち取ることに成功したし『文句のない彼女』のはずだった。
それなのに、その矢先に別れ話……だなんて、あまりの空回りっぷりに自分でも笑えてくる。
「きゃー! 見た? 見た? 今の?」
「見た見た! かっこよすぎ!」
あたりも徐々に薄暗くなってきたというのに、何が楽しいのか、ずっと変わらぬ体勢でサッカー部の練習を眺めてくすくす笑う女の子たち。
未だジメッとした空気さえもつきまとってくる。
そんな中でそうまでして基樹が見たいのかとぼんやり思う。
(いや、そうだよね)
当時のわたしだって負けてなさそうだろうなと思ったら、なんだかおかしくなった。
「あの……」
「ん?」
後ろから声がして初めて自分が誰かから呼ばれていることに気付いた。
「た、高崎さん……と、お、小栗さん……」
驚いた。
振り返った先に、当時のクラスメイトたちが複雑そうな表情でこちらを見ていたのだった。



