「エマちゃん!」

 それから聞き取りがあるということで連れて行かれた警察署にて、入り口に足を踏み入れた途端、大きな声が聞こえて顔を上げると、凄まじいスピードで前方から走ってきた節子さんに思いっきり抱きしめられる。

「エマちゃん……ああ、エマちゃん、エマちゃん……大丈夫だった? 怖かったわね」

 ぎゅっと包みこんでくれるその温かさは親子揃った変わらない。

「エマちゃん、エマちゃん……ああ、生きた心地がしなかったわ。……ちょっと、基樹、いい加減エマちゃんを離しなさいよ」

「言っとくけど、被害に遭ってんのは俺の方なんだけどな。ケガもしてるし」

 節子さんが指摘するもわたしの手を一向に離そうとしない基樹にもう大丈夫だと何度目かになる言葉を繰り返すも聞いてはくれない。

 普段なら絶対に人前で手を繋ごうとさえしなかったのに、今日は気にしていない様子だ。

「大切な彼女を身を挺して守ったのだけは褒めてあげるわ。ただし、親に心配をかけないこと」

「はいはい」

「お父さんも週末帰るそうだから」

「げっ!」

 基樹と節子さんのやりとりを眺め、未だ現実とは思えない、宙に浮かんだようなふわふわした心境だった。

 それからはしばらく、お母さんと基樹が過保護になって送り迎えをしてくれたし、できるだけひとりで歩くことはなくなった。

 結局、基樹を刺した通り魔は、無差別に女子高生を襲っていた愉快犯らしく、わたしの前にも数人女子高生たちが被害に遭っていた。

 わたしがずっとつけられていると思っていたのはただのストーカー(いや、これはこれで大問題だけど)をしていたらしく、その男ももれなく事件当日も居合わせたそうで、基樹曰く、基樹が斬りつけられたとき、腰を抜かしてそのときの恐怖から気絶をして、そのまま病院に搬送されてしまったらしい。

 それからは恐れをなしたのか、わたしの周りに現れることはなくなった。

 とにかく、わたしにとって、本当の意味でようやく再びの平和が訪れたのだった。

 それは、暑い暑い夏の日のことだ。