どうして好きな人がいるのだと自分をふったはずの男がここにいて、何をどう間違ってこんなにも親しげに話しかけてきてるんだろうか。

 なんならわたしのかわりに怪我までさせてしまったのだ。

「好きな人がいるなら……ほっ、ほっとけばよかったのに……」

 言いたいことは山ほどあった。

 伝えなければならないと、あのときは思っていた。

 だけど、夢と現実は別だ。

 こんなやつ、見たくない。

 他に好きな人がいるのなら、二度と前に現れないでほしい……そう思ったのだけど、夢の余韻からか、胸のあたりがぐっと苦しくなる。

 ムキになればなるほど目の前がぐらぐらして、気持ちが悪い。

「もう、また無茶する」

 言うだけ言ったわたしが反応しないものだから、ようやく異変に気付いたのか覗き込んでくるこの人に、今までと同じように穏やかな心情で接することなんてできそうになかった。

「まだ体調悪い?」

「わ、悪かったわね。迷惑かけて……」

 おせっかいにもこの場所を提供してくれたという同じクラスの女の子とやらにさえ、恨めしい気持ちになった。

 いったいどんな恨みがあって今このタイミングで……って、実は今の好きな人なんじゃ……なんてふと考えたら、いてもたってもいられなくなる。

 頭がかっかと燃えるように熱くて、落ち着くなんてとてもじゃないけどできそうにない。

「……ったく」

 思わず大きな声を出してしまったからか、隣であきれたようなため息が聞こえた。

 顔を見なくたってわかる。

 もうほうっておいてほしい。

 もうこれ以上、わたしの中に入って来ないでほしいのだ。

「戻ってきてもいじっぱりのままか」

 まだ物申し足りなくて、無理に起き上がろうとしたわたしをさりげなく支えてくれる基樹はまた大げさなため息をはく。

「ムキになった俺も悪かったけど……」

「ムキに? な、何言ってるの? ほかに好きな人がいるってふっといて、こうやって堂々と目の前に現れるほうが理解に苦しむんだけど」

 顔をあげて思いっきりにらんでやる。

 こんなことを言いたかったわけじゃないのに、結局こうなってしまうのだ。

「ええ、そうね。めちゃくちゃかわいかったわよ、中学生のあんた。今とは比べ物にならないくらい、すっごくかわいかった」

 むしろ、わたし自身はこういうところがはかわいくないんだろうなと思いながらも、嫌味たっぷりに言ってやった。

 それでもこの気持ちは収まらない。本当に、嫌になってしまう。

 怒るかと思ったけど、何も言わない基樹の瞳は優しい色をしていた。

「も、もと……」

「待ってたんだ」

「え?」

「今日、この日を待ってた。おまえが返ってくるのを、俺はずっと待ってたんだ」

 その瞳には、メイクはぼろぼろで、髪は髪でぼさぼさになったわたしが写ったいた。